東日本大震災・原発事故

【震災・原発事故12年 復興の分岐点】避難区域の営農再開 追いつかぬ担い手確保 生活との結び付き重要

2023/03/10 09:30

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 東京電力福島第1原発事故に伴う避難区域が設定された福島県内12市町村では、国の支援事業や交付金を財源に営農再開を後押しする農業関連施設の整備が進んできた。被災地にとって農業は基幹産業だけに、県やJAも支援策に力を注ぐ。だが、長期にわたる避難や営農休止などの影響は今も色濃く、担い手の確保や農地の復興は途上にある。住民の帰還状況は市町村間で差があり、営農再開の進度は大きく異なるのが実情だ。専門家は、まちづくりと関連付けた戦略の策定、市町村の枠を超えた広域連携の重要性を指摘する。

 国や県は避難指示解除に合わせ、営農再開に向けた各種設備の整備を支援してきた。2021(令和3)年度には被災地での広域的な産地づくりを促すための高付加価値産地展開支援事業を創設。生産・加工を進める施設の整備、最新機材の導入などの費用を補助している。ただ、そうしたハード面の充実に、マンパワーが追いついていないのが現状だ。

 「施設を生かし、相双地域全体での栽培を活性化させるための担い手は、まだまだ育っていない」。楢葉町にサツマイモ関連施設を整備した福島しろはとファーム(楢葉町)の取締役・岡田知行さん(61)は打ち明ける。

 高付加価値産地展開支援事業の補助を受けて完成した施設で年明けに育苗を始めた。120ヘクタール分に相当する260万本の苗を育てる目標を掲げるが、県内で最も栽培が盛んな楢葉町でも現時点では約50ヘクタールにとどまる。岡田さんは相双地域の他市町村での栽培に向け、苗の無償提供などで生産者を増やす方策を模索するが、まだ受け皿が少ないのが現状だ。

 担い手を確保するには土壌の再生も不可欠とみる。被災地で除染廃棄物の仮置き場となった農地は原状回復の過程で養分を含んだ土壌が除去され、地力が弱っているという。「良質な土で十分な収量を確保できる環境でなければ、担い手は呼び込めない」とし、国などに対策強化を求めている。

 原発事故の影響で、12市町村の農業従事者は激減した。農林水産省が5年ごとに実施する農林業センサスでは、2010(平成22)年に約1万2千人だった農家の数は、10年後には約3900人まで減少した。農業復興の厳しさは営農再開率にも表れている。直近の2021年度の再開率は12市町村全体で42・6%。市町村別では避難指示解除の時期によって再開率に大きな開きがある。

 双葉町の木幡治さん(72)=いわき市に避難=は、昨年8月に避難指示が解除された町内の特定復興再生拠点区域(復興拠点)で営農再開し、12月にブロッコリーを出荷した。喜びの反面、さみしさも感じている。「担い手はなかなか戻ってきていない。自治体やJA、生産者らが一体で取り組まなければ前に進まない」

 被災地の多くの地域では若者や働く世代の帰還が少なく、農家の高齢化が進む。農業の復活には、新規就農者や移住者を呼び込むことが重要だとの指摘もある。福島大食農学類の小山良太教授(農業経済学)は暮らしとなりわいを結び付けた戦略策定が必要だと訴える。「原発事故に見舞われた地域で担い手が定着するには、営農とまちづくり、コミュニティー形成を同時に考える必要がある」と指摘している。