東京電力福島第1原発事故で精神的被害を受けたとして、福島県いわき市民約1340人が国と東電に約13億5千万円の損害賠償を求めた集団訴訟の控訴審判決が10日、仙台高裁であった。小林久起裁判長は国の法的責任を認めた一審判決を覆し、国の責任を認めない判決を言い渡した。昨年6月に先行する4件の集団訴訟で最高裁が国の責任を否定して以降、国を被告に含む同種訴訟の下級審で判決が出るのは初めて。原告側は上告する方針。
東電の賠償責任は一審に続き認定し、計3億2660万円の支払いを命じた。昨年12月に策定された国の賠償基準「中間指針」第5次追補の水準を上回る賠償を認めた。
主な争点は共通しているが、最高裁は国の機関が2002(平成14)年に公表した地震予測「長期評価」の信頼性や津波の予見可能性について明確な判断を避けており、高裁の判断が注目されていた。
小林裁判長は、最高裁が言及しなかった争点にも踏み込んだ。長期評価は信頼性があり、2002年の公表直後に津波の試算をしていれば、同年末までに巨大津波を予見できたと認定した。国が東電に津波対策を命じれば「重大事故が起きなかった可能性は相当高い」と判断。国が規制権限を行使しなかった不作為は「極めて重大な義務違反であることは明らか」と糾弾した。
一方、想定される津波や防護措置は「幅のある可能性がある」として、対策の内容によっては「必ず重大事故を防げたとは断定できない」と判断。国家賠償法上、規制権限の行使を怠ったことで違法に損害を与えたとは言えず、賠償責任はないと結論付けた。
原発事故に伴い日常生活が阻害されたとして、「避難指示がなくても避難を余儀なくされた」と判断。被害の認定期間を拡大し、一審判決から賠償額を上積みした。
◇ ◇
原発事故の賠償問題を研究している大阪公立大大学院の除本理史教授(環境政策論)は、判決が国の責任を厳しく追及しながらも、事故を防げた確証がないとの理由で法的責任を否定した点を「拍子抜けだ」と批判。救済範囲を拡大した点は評価し、「避難指示の出なかった地域でも避難を余儀なくされたと認めたことなどは後続訴訟への影響が注目される」とした。
元東京高裁判事の升田純弁護士は、最高裁が明確な判断を示さなかった争点について仙台高裁が深く言及したことに着目。一般的に下級審は最高裁判決に拘束され、異なる結論を出すのは「高い壁がある」と指摘。その上で「国の責任を最大限厳しく追及したのではないか」と推察した。