県の奨学金返還支援事業の応募が低調だ。大学新卒者らの県内就職・定住促進を目的にした事業で、支援の条件を満たせば学生時代に日本学生支援機構から受けた奨学金のうち、最大約300万円が補助される。しかし、ここ数年の応募は募集の半数程度にとどまる。制度の内容が学生に十分に伝わっていなかったり、分かりにくかったりするのが要因とみられている。県は効果的な運用に向けて周知や募集方法、制度の中身を点検し、若者の定着につなげてもらいたい。
補助の最大額は大学が153万6千円、大学院の修士課程が211万2千円、博士課程は292万8千円などとなっている。卒業や修了後、県内に就職して5年以上住み続けた段階で申請を受け、県が直接、機構に支払う。
募集対象は1、2年後に就職を予定している奨学生のほか、既卒者は35歳未満などの要件がある。就職先は「地域経済をけん引する成長産業分野」か「地域資源を生かした産業分野」で、前者はエネルギー、医療、ロボット、環境・リサイクルなどの関連産業、後者は製造、商業、サービス、観光産業の中小企業に限定されている。
応募状況を見ると、50人を募った2019年度は37人、既卒者を加えるなどして募集人数を65人に増やした2020(令和2)年度は34人、2021年度は30人と減り続けている。2022年度は昨年秋までで12人となっている。
奨学金返還中の若者の生活は厳しさを増している。労働者福祉中央協議会が全国の2200人を調査・分析した結果、借入総額は平均310万円、毎月の返済額は1万5千円、返済期間は14年6カ月だった。返済が「苦しい」と答えた人は44・5%に上った。
県は事業の内容を知らせるポスターを首都圏などの駅構内に掲示したり、ホームページで紹介したりして周知に努めるとしているが、応募の推移を踏まえると十分とは言い難い。県内高校生の大学進学率は年々高まり、昨春は48・8%と過去最高だった。専門学校などを含めると約70%に達する。制度の趣旨に沿う形で、現行は対象外の短大や専門学校の学生も利用できるようにすべきではないか。
他県では、短大生らを対象に含め、公務員などを除いて就業先を制限せず、起業や創業も認めている例がある。財源確保に向けては企業からの寄付を充てる自治体もある。こうした例を参考にしながら、本県の担い手を広く呼び込める制度の在り方を吟味してほしい。(古川雄二)