政府機関の地方移転は、文化庁が今春、京都に移ったのを区切りに幕引きされるとの見方が出ている。東京一極集中の是正と地方創生の柱に据えながら、本格移転が最小限にとどまるならば、効果は限定的でしかない。首都直下地震への対応など危機管理上、極めて重要な課題は積み残されたままだ。移転に継続して取り組む必要がある。
移転は政治、経済、さまざまな機能が東京に集中する現状を打開し、人口減少が進む地方活性化の起爆剤にする狙いがある。会社を地方に移すよう経済界に求めるだけでは説得力がないとして2014(平成26)年、当時の安倍政権が各省庁に積極的に臨むよう号令をかけたのに始まる。
対象は中央省庁だけでなく、全国250もの国、独立行政法人の研究機関や施設が網羅された。ただ、広範に及んでも、日本原子力研究開発機構の「高速増殖炉もんじゅ」など非現実的な施設がいくつも含まれ、例外なく移転を検討するとの強い意思表示とは受け取れなかった。
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興を担う郡山市の福島再生可能エネルギー研究所も、開所2年目で候補とされるに至っては、地方創生とのつじつまが合わない。振り返れば、地方の期待は高まった一方で、当初から本気度が疑われた。
42道府県から69機関の誘致に向けた提案があり、本県は福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の拠点となるロボットテストフィールドなどの新設が具現化した。ただ、全国的に見て本庁規模の移転は文化庁のみで、他は省庁内の部署レベルにとどまる。
やはりと言うべきか、移転を巡って省庁内に強い抵抗が起きた。国会対応の難しさや庁舎整備費の増加などを理由に挙げ、自治体側には移転効果の立証を求めた。最終的に、出先機関の体制強化という代替策によって大半が本格移転を見送られたという。
移転が国民の利益を著しく阻害するならまだしも、本来の目的に添って真[しん]摯[し]に地方と向き合った上での結論なのか。後ろ向きの印象は拭えない。1990年代に盛り上がりを見せた首都機能移転は、本県を含む3地域が最終候補地に絞られ、一時は現実味を帯びた。その後、国会の動きが鈍く、立ち消えになった記憶が重なる。
政府は移転の効果や課題を新年度にまとめ、今後の対応を検討するとしている。省庁の利害を優先することなく、大局的な見地で議論してもらいたい。(五十嵐稔)