
東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域のうち、福島県浪江町の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除された31日、高田秀光さん(71)は再建した室原地区の自宅に戻り、花の栽培で再起を図る決意を新たにした。「古里での暮らしを取り戻す」と再出発を切る。
31日朝、避難先の南相馬市から戻ると、ビニールハウスで育てる約1万本のトルコギキョウの苗にいつも通り水をかけた。「ようやく制限なく家に戻れる」。自然と声が弾んだ。
農家の3代目として生まれた。地元の銀行に勤めながら家業を手伝い、55歳で早期退職すると専業農家に転じた。妻や母と一緒にリンドウなどを育て、平穏な第二の人生を送るはずだった。花き農家としての経営が安定しかけた頃、震災と原発事故に見舞われた。
古里を追われて県内外を転々とし、発生10日後には長女のいる広島市に避難。その年の秋に東広島市の空き家に移った。避難先でも野菜を育て、近隣住民とも交流を深めたが、室原の空気は忘れがたかった。「少しでも古里に近づきたい」と2017(平成29)年1月に妻や母と南相馬市の災害公営住宅に入った。
約8カ月後には室原の自宅周辺を復興拠点に認定し、2023(令和5)年春には避難指示を解除する方針が示された。除染された農地で2021年からトルコギキョウやストックの栽培を始めた。立ち入り許可を得て南相馬からほぼ毎日車で通った。栽培3年目を迎え、出荷も増えた。徐々に準備を整え、近い将来の帰還を見据える。
ただ、避難指示が解除された地域は室原全体でみれば一部で戻る住民もごくわずかだ。それでも、「誰かが何かを始めないと町は動き出さない」と前を向く。
トルコギキョウは6月ごろに開花する予定だ。「今年は特に大きな花が咲くよ。避難指示が解除になったから」。古里に大輪の花が咲く日を待ちわびる。