論説

【飯舘の復興拠点】再生へ農業振興を(4月8日)

2023/04/08 09:00

  • Facebookで共有
  • Twitterで共有

 東京電力福島第1原発事故に伴い、飯舘村長泥行政区の帰還困難区域に設定された特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除に向けた日程協議が今月中旬にも行われる。順調に進めば5月の大型連休ごろに住民生活が再開される。まずは大部分を占める農地の利活用を軌道に乗せ、農業振興と地域の活力向上につなげる必要がある。

 復興拠点の面積は186ヘクタールで、村民の一時宿泊を想定して2ヘクタールの居住地域が新たに設けられる。それ以外は農地と山林だ。復興拠点内の63世帯200人を対象にした準備宿泊に現在、3世帯7人が登録している。かつての基幹産業は稲作や畑作だっただけに、農業の再生は住民の帰還の受け皿として重要だ。

 国は農地の除染に加え、除染土壌を再生利用した農地を造成してコメ、カブやコマツナといった野菜、トルコギキョウなどの花卉[かき]の実証栽培に取り組んでいる。環境省によると、再生土壌を埋め立て、その上に山砂を50センチの厚さまで敷いて栽培する手法により、農産物の安全性は確認されているという。

 農地を整備するだけでは、十分とは言えない。生計を立てられる見通しがなければ、農家が耕作再開に二の足を踏むことも予想される。長泥行政区は避難指示が解除された場合のなりわい確保と地域の発展を目指し、除染廃棄物の再生利用を求める国の意向に応じた経緯がある。営農意欲を高めるため、国は将来にわたって風評払拭と販路開拓に向けた支援を続けなければならない。

 村は復興拠点の避難指示解除後の5年間で、移住者を含め180人の居住を目標に掲げている。実現させる上でも、農業の基盤づくりは欠かせない。市場の動向や気象条件を踏まえた特色のある作物の選別、産地化による生産性の向上や作業の効率化も求められるだろう。

 村は復興拠点外の0・64ヘクタールも公園として解除する方針だ。舗装して更地のまま放射線量の観測地点として活用するとしている。村民のさまざまな声を聞き、将来を見据えた公園の在り方も模索すべきではないか。原子力災害を伝えると同時に、地域の再生を象徴する公園として、村民が集えるような施設の整備も検討してほしい。(円谷真路)