東日本大震災、東京電力福島第1原発事故から12年が経過し、記憶と教訓の伝承が課題となる中、当時を知らない子どもが増えている福島県の小中学校の教育現場では、持続可能な取り組みに向けて試行錯誤が続く。子どもが災害の怖さや放射線の影響、防災などをイメージしやすいよう教員が授業づくりに工夫を凝らす。震災を直接経験していない若手教員への研修に乗り出す自治体もある。専門家は学校の枠にとどまらずに、災害を体験した地域の住民や資料館、語り部団体などと連携した教育の実践を促している。
県教委が昨年度、公立小中学校の校長らを対象に聞き取りした調査では、県内全ての公立小中学校が放射線や防災に関する教育を実施していた。ただ、12年という歳月の経過から、震災や原発事故を直接経験していない児童や当時の記憶が薄い生徒が増えており、教員は授業づくりのアイデアを練っている。
「最初は『震災と原発事故って、なあに?』という反応をする児童が多かった」。会津地方の小学校に勤務する女性教諭(27)が明かす。このため、児童が12年前の大規模災害をイメージしやすよう、全国で近年発生した自然災害などと関連付けて説明しているという。「授業は試行錯誤だが、児童が次第に自分の身を守ることに関心を示してくれた」と教訓の伝承の意義を語る。
県南地方の小学校では、教員が教室で教えられる知識には限度があるとして、放射線の影響や知識を深く学べる県環境創造センター交流棟(コミュタン福島、三春町)の見学学習を企画した。他の地域の学校でも同様の動きがある。
一方、相双地方の女性校長(60)は「震災を知らないのは生徒に限った話ではない」と指摘する。12年前の当時、県外の大学にいた若手教員らの中には震災を直接経験していない人も多い。「教える側も、自分たちが住む地域で何が起きたのかを知るところから始めるのが大切」と強調する。
福島市教委は今年度、伝承館で教員向け研修を初めて開催する計画で、若手教員を中心に震災と原発事故への理解を深めてもらう。
伝承館の青砥和希常任研究員(31)は「震災や原発事故を経験した地域住民や、地域の災害の記憶を刻む博物館や歴史民俗資料館などと連携した授業づくりが効果的だ」と提案する。NPO法人富岡町3・11を語る会代表の青木淑子さん(75)も「地域の語り部団体と学校との協働が重要になる」と指摘した。県教委は「県内の学校の実践事例を共有し、先進的な取り組みを広げていきたい」としている。
県教委は今年度、東日本大震災、東京電力福島第1原発事故の教訓を伝承する「高校生語り部」事業の対象を従来の県立高のみに限らず、私立高にまで拡充する。県立高の参加促進も含め、将来の伝承を担う若者の確保に力を入れる。
語り部育成事業は2021(令和3)年度に始まった。初年度は県立高の27校、2022年度は23校が参加し、それぞれ総合的な探究の時間や地域のイベントなどで実践してきた。関係者によると、活動をきっかけに、生徒が家族から震災の記憶を聞く「家庭内の伝承」の効果もあった。
全国で震災の記憶の風化が懸念される中、県教委は県外での活動も進めている。昨年度は今年1月に滋賀県の彦根東高を訪れた安積高と白河高をはじめ、計7校の生徒が10都府県の中学校、高校で複合災害の現状と復興を伝えた。
一方、現時点では参加する高校、生徒が限られるなど課題もある。県教委は県立高の参加をより一層促すとともに、私立高まで対象を拡大するなどして、より多くの生徒の参加につなげたい考えだ。
県が3月11日に双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館で開いたメモリアルイベントでは、活動に参加した高校生が震災伝承への思いを語った。佐藤菜々香さん(原町高3年)=相馬市在住=は「あの日を覚えている最後の世代の一人として、震災が教えてくれた互いに思いやる気持ちの大切さを伝え続ける」と力を込めた。