政府は異次元の少子化対策を巡る議論を本格化させている。現役、将来世代が展望を持てる施策が求められるが、持続的な解決につながるかどうかは未知数だ。そもそも首都圏や大都市部への人口集中という構造的な問題も少子化の背景にあると思えてならない。産み、育てやすい環境は地方にあるとの着眼点で、移住・定住策を含めた検討が必要ではないか。
対策の試案に出産費用の保険適用、児童手当の所得制限撤廃などが盛り込まれた。男性育休取得率の引き上げなど男女の仕事と育児の両立、分担も重視し、将来的な子育て予算倍増の大枠は6月に打ち出す経済財政運営指針「骨太方針」で示すとしている。
全ての施策を実現するには兆円単位の財源が必要とされる。社会保険料に上乗せする案が浮上する一方、税負担を求める声もある。総額43兆円に上る巨額な防衛費の財源確保も迫られる中、安定した財政基盤を構築するのは国民の痛みも伴う難題だ。
人生、職業、結婚観はそれぞれに異なる。資金や制度面の支援は重要とはいえ、子どもを産むかどうかはあくまで個人の意思による。対策を異次元に拡充したとして、出生率の上昇に機械的に結び付くわけではないだろう。
東京都の2021(令和3)年の合計特殊出生率は1・08で、全国で最も低い。本県は1・36で全国平均の1・30を上回るなど、地方の数値は比較的高い。人口維持に必要とされる2・07との開きはあるものの、過密な都会に比べて地価や物価が安く、地域のまとまりや生活空間にゆとりを残す地方は出産、子育ての場としての潜在力を蓄えていると言っていい。
厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所は、2070年の人口を8700万人と推計した。縮小していく社会を見据えた国づくりも求められる。かけ声倒れの一極集中の是正を本気で進め、地方の雇用環境を高めるなどして子育ての活路を広げる取り組みにも注力すべきだ。
思い返せば、出生率の議論が先立つ社会に生きづらさを感じる人もいるかもしれない。きょう5日の「こどもの日」に、今と将来を生きる子どもたちが少子化でも健やかに成長できる社会の在り方も考えたい。(五十嵐稔)