

福島県内のJR常磐線沿線で今夏計画されている「常磐線舞台芸術祭2023」は、「つなぐ、」を統一テーマに7月31日から8月13日まで、演劇や詩の朗読、ライブなどの複合芸術を展開する。住民の意見を舞台に反映させるなど地域と関わりながら練り上げるアートの力で、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興に歩む住民の思いを一つにする。
南相馬市小高区在住の芥川賞作家柳美里さんがプログラム・ディレクターを務める実行委員会が、新地町からいわき市までの浜通り16会場で演劇や合唱など多くのプログラムを予定している。主な芸術祭の内容は【表】の通り。
双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館で8月5日、地元の人々が多く出演する「日没を祭れ2023」を催す。福島市の詩人和合亮一さんの詩の朗読やピアノ演奏、合唱などを披露し、県民の心に光をともす。合唱曲「群青」など震災後に生まれた曲を取り上げ、復興への思いを共有する。
柳さんが旗揚げした演劇ユニットの青春五月党による演劇「JR常磐線上り列車―マスク―」は8月4日から6日まで、小高区で演じられる。他にも鉄道や震災にちなんだ公演が実施される。
芸術祭を企画したきっかけは、震災と原発事故で地域コミュニティーが変容した浜通りの住民の心と心をつなぐ文化事業が必要と柳さんが感じたからだ。地域密着のアートに触れてもらい、価値観を共有して地域の魅力を再発見することで、連帯感を育もうと動き始めた。
常磐線の全線再開通を見据えて2018(平成30)年ごろから計画づくりを開始した。本県復興に思いを寄せる各分野の知人に声をかけ、協力を得て芸術祭の実現にこぎ着けた。
県外から芸術ファンを呼び込むことで、常磐線の利用促進も目指す。芸術祭は来年以降も継続する。
実行委員会メンバーは12日、小高区の劇場兼ミニシアター「Rain Theatre」で記者会見し、芸術祭の概要を発表した。柳さんは「多くの地元の人が関わるイベントや演目を考えている。首都圏を含め、バトンを渡せる若い人たちに参加してもらい、これから5年、10年と育てていきたい」と語った。
■開催へ思い寄せる 福島県ゆかりの文化人ら
実行委員には福島県出身、ゆかりの文化人らが名を連ね、12日の記者会見で芸術祭への思いを語った。
ふたば未来学園の教育復興応援団の一員で、芸術祭でフェスティバル・コーディネーターを務める劇作家平田オリザさんは「福島と向き合い、今を知ってもらう芸術祭になってほしい」と語った。
郡山市出身の作家古川日出男さん、いわき市の地域活動家小松理虔(りけん)さん、相馬中村藩主家第33代当主・相馬和胤(かずたね)さんの長男行胤(みちたね)さん、いわき市のアリオスの職員萩原宏紀さんが出席した。和合さんはビデオメッセージで思いを寄せた。