5類へ移行したけれど…(5月14日)

2023/05/14 09:15

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 5月8日から、新型コロナの感染症法上の位置付けが2類から5類へと移行した。2020年早春に始まったパンデミックは、3年余りの月日を経て、ようやく一つの区切りを迎えたことになる。感染規模の大きさ、死者数、そして当たり前の生活がこれほどまでの長期にわたって制限されたことは、一つの歴史として刻まれるだろう。

 日本国内だけで、2020年春から2023年5月頭までの感染者数はおよそ3377万人、感染による死者数は7万4千人を超えている。ちなみに、100年前の大正時代、1918年から1921年に流行したスペイン風邪は、やはり同じ様に3年余り続き、日本での感染者数はおよそ2380万人、死亡者数はなんと38万人を超えていた。数字の上では、感染者数は今回のコロナの方がはるかに多く、そして死者数は医療の進化もあって、今回は大きく抑えられたと言える。

 今回のコロナ禍の中で、お付き合いのあった方お二人を感染症で見送った。お一人はまだ50代前半の働き盛り、もうお一人は80代でも、まだまだ多くの部下を率いて第一線で仕事をこなしていたリーダーだった。

 元気だった方が、あっという間にこの世から旅立ってしまったことを知った時の無力感…。この流行病さえなければ、今もきっと、相変わらずの笑顔で精力的に仕事をこなしていらしただろうと思うと、どこにこの虚[むな]しさをぶつければ良いのかわからなくなる。天災なのか人災なのか原因究明は曖昧なままだが、新型コロナはまさしく大きな「災害」なのだ。

 この春からは大勢の人が街へ繰り出し、観光地はどこも人で溢[あふ]れた。自粛生活から解き放たれて、皆が自由と開放感を求め、規制されていた日々を忘れようとしているかのようだ。

 「喉元過ぎれば」ということばがある。そしてまた、日本人は元々、自然災害が多い風土に培われた我慢強さと同時に「忘れる」強さも持っている。

 けれど一方では、亡くなった7万4千人の方の家族や知人は、割り切れない複雑な思いでこの美しい新緑の初夏を迎えているに違いない。

 100年前のスペイン風邪の終息期にアメリカで発表されたという論文に、「人々は疲労感から『もう終わるに違いない』という楽観論に走り、パンデミックの記憶を過去へと押しやろうとし、その結果、社会的に弱い立場のコミュニティの死亡率が一般よりも高まった」という記述がある。

 今後、新たな第9波の可能性も専門家から指摘され、高齢者や病歴のある方などの危険性は継続中だ。

 皆ともに厳しいコロナ禍を経験したのだからこそ、弱い立場や状況にいる方に寄り添う想像力を持って、最大限の配慮をしたいものだ。

 亡くなった方の無念に報いるためにも、まだまだ気を引き締めねばと思う。(宮田慶子 白河文化交流館コミネス館長)