葛尾村は今春、村制施行100周年を迎えた。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興へ歩む一方で、避難住民の帰還や全域の避難指示解除など課題は積み残されたままだ。基幹産業の農業振興とともに企業誘致を強化し、古里再生を一段と加速させる必要がある。
全村避難を経て、2016(平成28)年6月に避難指示解除準備、居住制限両区域、2022(令和4)年6月に特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除された。5月1日現在、1288人の住民登録に対して4割に当たる465人が居住している。原発事故発生前は30世帯・約80人が暮らしていた復興拠点では、1人が生活を再開している。
復興拠点は、帰還困難区域となっている野行[のゆき]地区約1600ヘクタールのうちの約95ヘクタールに過ぎない。国は復興拠点外でも希望者の帰還を進める方針を示している。それだけでは帰還困難区域がまだらに残ることも想定され、住民帰還の妨げになりかねない。帰還困難区域がある他市町村と連携し、全域の避難指示解除の工程を示すよう国に求めるべきだ。
村は住民の帰還を促し、移住者増も目指して農畜産業への支援や産業団地の整備に力を注いできた。農家が農業法人を組織してコチョウランを栽培したり、畜産業者が羊肉生産に乗り出したりするなどブランド創出の試みも生まれた。2カ所の産業団地は計6区画のうち、1区画は工場が既に稼働し、4区画は企業の進出が決まっている。
芽吹いた産業を定着させ、さらに発展させるには交通など生活環境の改善が欠かせない。生活圏の浪江町に通じる県道浪江三春線は狭い区間が多く、大型車の通行が困難だ。県は延長約6キロを2025年度までにバイパス化する方針を固めている。南相馬市への通院、買い物などの利便性向上に加え、物流機能の強化につながる。早期完成に向け予算確保に努めてもらいたい。企業誘致を進める上では村営住宅など従業員や移住者の住環境の整備も重要だ。
村は11日、100周年を祝う記念行事を催す。避難先からも多くの住民が集い、復興の取り組みや進捗[しんちょく]状況に理解を深め、古里への誇りと愛着をあらためて胸に刻む一日にしてほしい。(円谷真路)