改正福島復興再生特別措置法が今国会で成立した。東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)から外れた地域の避難指示解除に向けた「特定帰還居住区域」の創設が定められた。古里での日常生活を取り戻したいと願う避難者の要望を踏まえ、柔軟な制度の運用が求められる。
特定帰還居住区域は、帰還希望者の宅地や周辺の道路、集会場、墓地など生活に欠かせない範囲が対象となる。地元市町村が計画を作成して政府の認定を受けると、国費で除染が行われる。道路や公共施設などの社会基盤の整備も国が代行する。復興拠点外の面積は7市町村合わせて約309平方キロ、住民登録は約7800人に上る。
新区域が法制化され、今後は範囲がどこまで認められるのかが焦点となる。国会審議で複数の議員が「農業をなりわいや生きがいとする住民がいる」として、農地を対象に含めるよう訴えた。政府は理解を示しつつも「水路などを維持、管理する住民、自治体とも検討していきたい」と具体的な方針には言及しなかった。避難者の日常を回復するための避難指示解除であるならば、農地の除染は不可欠ではないか。
地域コミュニティーの再生や伝統文化継承などの観点から、神社仏閣など誰でも立ち寄れる場所を区域に含めるかどうかも注視したい。帰還者の孤立をはじめ、避難先で暮らす住民との心の分断を防ぐ効果も期待できる。住む人の思いや、地域の絆なども考慮して対応すべきだ。
衆参両院の委員会がそれぞれ採択した付帯決議に「住民が安心して帰還できるよう、各地域の現状や住民・地元自治体の意向を十分に踏まえ、生活圏を幅広く捉えながら、除染の手法と範囲を決定する」との文言が盛り込まれた。これは国会の意思であり、政府は最大限に尊重し、実行する必要がある。
大熊、双葉、富岡、浪江4町の帰還意向調査では、保留や未回答が目立っていた。「帰りたいか」と問われても、家族や仕事、健康などの事情で即答できない避難者もいた。国と地元自治体は避難者一人一人に寄り添い、実態に即した計画づくりを進めてもらいたい。(角田守良)