論説

【IAEA報告書】強行突破許されない(7月5日)

2023/07/05 09:11

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 東京電力福島第1原発にたまり続ける処理水の海洋放出計画を巡り、国際原子力機関(IAEA)が「国際的な安全基準に合致する」との包括報告書をまとめたのは想定内ではある。「科学的根拠に基づき、透明性を持って国内外へ丁寧に説明していく」との岸田文雄首相の発言も想定の域を出ず、風評を危惧する関係者の理解を得る決意は聞こえてこなかった。風評を抑えるために説明を尽くすのは当然だ。首相自らが漁業者、県民、国民と真剣に向き合い、新たな風評を封じる対策を主導すべきだ。

 政府は今年1月に策定した処理水処分の行動計画で、柱の一つに「風評を生じさせない仕組みづくり」を掲げた。農林水産業の生産者から流通業者、消費者までを対象にした説明会、メディアでの広報活動などを展開してきた。

 しかし、福島民報社と福島テレビが先月実施した県民世論調査は、回答者の9割が「風評が起きる」と答え、7割弱が政府の説明不足を指摘するなど厳しい結果となった。

 政府は、国際機関による科学的裏付けとなる包括報告書を基に、理解醸成の取り組みを強化するとしている。本県産の農産物は原発事故発生後、放射性物質検査を実施しても市場での買い控えが収まらなかったように、安全との情報を消費者に浸透させるのは容易でない。国民と膝詰めで向き合うくらいの姿勢が欠かせない。

 公明党の山口那津男代表は2日、福島市で記者団に対し、安全性の周知に時間をかける必要性があるとの見解を示した。連立政権を組む党首の発言を首相は重く受け止めるべきではないか。東電は処理水の保管タンクが満杯になる時期を「今年夏から秋ごろ」から「来年2~6月ごろ」に見直した。政府は「今年春から夏ごろ」としてきた海洋放出の目標を変えていないが、現状を踏まえて柔軟に対応すべきだ。

 「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」との政府の方針に対し、県内の漁業関係者らとの議論は平行線をたどったままだ。

 何を持って「理解を得た」と判断するのかも明確になっていない中、報告書を盾に「日程ありき」の強行突破は許されない、と肝に銘じてもらいたい。(角田守良)