大熊町の特定復興再生拠点区域(復興拠点)は、避難指示の解除から1年余りが経過した。町は、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生以前の中心部だったJR常磐線大野駅周辺で商業、住宅、産業の計5拠点の整備を進めている。住民帰還や移住施策を強化して飛び石のように点在する各拠点間への居住を促し、面的な古里再生を前に進めてもらいたい。
復興拠点は町役場などがある大川原地区と隣接し、面積は大野駅の東西約860ヘクタールに及ぶ。昨年6月末の避難指示解除とともに、居住が再開した。6月1日現在、2227世帯5766人の住民登録に対し、移住者を含め62世帯90人が居住している。
復興拠点内の再開発は、避難を続ける住民の帰還を加速させると同時に、移住者らを呼び込む狙いがある。大野駅西側に商業施設と、企業が入居する産業交流施設を設ける。将来的に「図書館」「公民館」「震災と原発事故の継承」の3機能を持つ複合施設を整備する。住民の生活環境の向上に加え、交流人口の拡大も期待できる。
大野駅の南側1・5キロ圏内に三つの住宅エリアと、新産業や研究施設を誘致する産業拠点の整備も計画されている。各拠点の間には住宅や田畑が広がる。拠点の周辺に居住者をどう増やしていくかが復興の鍵と言えるだろう。住宅を移住者用に改修する際の手厚い補助など、商業施設や産業交流施設、産業拠点に関わる人が町内に居住する施策を推し進める必要がある。
「学び舎 ゆめの森」での教育が大川原地区で8月に始まるなど、復興は面的な広がりを見せ始めている。復興拠点と大川原地区間のアクセスなど道路網をさらに向上させれば、両地区に一層の活気が生まれるはずだ。
原発事故発生以降、休止している県立大野病院が復興拠点内に立地している。県は双葉郡内の医療機関にはない皮膚科、耳鼻咽喉科、産婦人科など6科を含む20診療科を有する後継病院を開設する方針を固め、設置場所を協議している。医療の充実は、避難住民が古里に戻れる環境づくりに欠かせない。できるだけ早期に具現化し、大熊町をはじめ避難区域が設定された被災地の住民帰還と復興を後押してほしい。(円谷真路)