
念願のパラリンピック初出場へ大きく近づいた。パリで14日(日本時間15日)に行われたパラ陸上世界選手権の女子砲丸投げ(上肢障害F46)で銅メダルを獲得した、福島市の斎藤由希子(29)=SMBC日興証券=。東京パラは、やり投げで出場を目指したが届かなかった。パリ・パラで砲丸投げが種目に採用され、再度の挑戦を決めた。長女を出産し、昨年秋に復帰したばかり。「遠くに飛ばし、もっと輝くメダルを取りたい」と声を弾ませた。
最終の6投目を終えると、涙が浮かんだ。昨年3月に長女を産んだ斎藤は、夫と娘を福島に残して参戦した。「産後1年でよくやった。100点」と万感の思いに浸った。
久々の海外での大会に緊張感を覚えた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で海外での試合は約5年ぶり。時差による睡眠不足が影響し、コンディションは万全と言えなかった。それでも1投目は10メートル24を記録し暫定3位に。徐々に復調し、表彰台に食い込んだ。
パリ・パラの出場枠獲得が懸かる今回の世界選手権まで、道のりは平たんではなかった。中学時代、左腕にハンディがあっても健常者と勝負できる砲丸投げの魅力を知り、競技にのめり込んだ。高校時代には東日本大震災の津波で宮城県気仙沼市の自宅が流され、「世界で活躍する選手になって元気づけたい」と、ますます競技に熱を入れた。
仙台大陸上部に所属していた21歳の時、世界記録を樹立した。しかし、砲丸投げは競技人口の少なさから2016年のリオデジャネイロ大会以降、パラリンピックの実施種目から外れた。やり投げに転向して出場を目指した東京パラは記録が伸びずに断念。来年のパリ・パラで砲丸投げの復活が決まり再度、“本職”に復帰した。
福島市の誠電社WINDYスタジアム(信夫ケ丘陸上競技場)を拠点に精進を重ねている。長女の出産で一時的に筋力が落ちたため、懸命にウエートトレーニングに励んだ。子育てと競技の両立に、「自分が選んだ道」と覚悟を決めた。
今大会、優勝した米国選手が目の前で世界記録を更新した。「絶対に届かない記録だとは思っていない」と受け止める。2位とは17センチ差。持ち前の向上心に一層、火が付いた。パリ・パラまで残り1年だ。「自身の全盛期を上回る投てき距離を目指す」。代表の座を勝ち取り、夢の舞台に立つため、決意を新たにした。
■「全力でサポート」夫・恭一さん
斎藤の夫恭一さん(33)は、長女と共に福島市の自宅で吉報を待った。無料通信アプリ「LINE(ライン)」で、競技中の動画などが送られてきたという。
恭一さんも学生時代に砲丸投げに取り組んでいた経験があり、休みの日は妻を指導することもある。「序盤は彼女本来の投てきではなかったが、後半から持ち直した」とねぎらった。パリ・パラ出場の実現に向け、「優勝争いができるよう全力でサポートする」と語った。
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日本パラ陸連は現地点でパリ・パラリンピック出場選手の選出基準を決めていないため、今回の世界選手権では、4位以内の選手の国・地域に出場枠が与えられるにとどまった。代表選手は日本パラ陸連が改めて発表する。