論説

【県内古道8選】誘客態勢を整えて(8月16日)

2023/08/16 09:08

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 日本山岳会は、2025(令和7)年の創立120周年記念事業として「山岳古道120選」を決定し、現地調査を進めている。歴史や文化を肌で感じる山の新しい楽しみ方を提案する試みで、県内は8カ所が選ばれた。古道愛好者をもてなす態勢を整え、誘客につなげてほしい。

 日本山岳会は国内初の山岳会として創設された。現在は公益社団法人で社会貢献に力を入れている。「120選」は会員らの推薦を基に選ばれた。街道や伝説、遺跡、石碑が残る道などが対象だ。本県は都道府県別で長野の15カ所に次いで2番目に多い。

 全国33支部が各地の保存団体などの協力を得て現況を調べている。結果を日本山岳会のホームページで公開し、2年後に書籍化する予定だ。

 県内の8古道は、福島市と山形県米沢市を結ぶ「万世大路」(栗子峠)、信仰の山「飯豊山」、豊臣秀吉が通ったという白河、会津若松両市間の「太閤[たいこう]の道」(勢至堂峠・背あぶり峠)、下郷町から栃木県へ抜ける「会津中街道」(大峠)、檜枝岐村から群馬県へ続く「沼田・会津街道」(尾瀬越え)、新潟県との県境を越える「会津街道」(鳥井峠・車峠・束松峠)、「八十里越」、「六十里越」。いずれも本県と周辺地域の往時の交易を支えた幹線で、歴史的な役割を後世に伝える意義は大きいと言える。

 選定は、荒廃が進む古道の保全につなげる狙いもある。福島支部が5月に調査した会津若松市湊町の「太閤の道」(背あぶり峠)は、以前は山仕事をする人や市内の高校生が学校行事で行き来していた。現在は利用者が減り、荒れた状態という。まちづくりに取り組む地元NPOの役員は今回の選定を「全国に発信する好機」と期待している。湊地区には砂鉄から鉄を取り出す製鉄所「たたら場」があったとされる。NPOは「たたら炉」を実証する事業に力を注いでいる。こうした取り組みは全国から歴史ファンを呼び込む推進力になる。

 福島支部は県民が古道に親しむ催しを検討している。団体客向けの案内人を養成したり、古道にまつわる講演会や展示会と抱き合わせてツアーを企画したりする活動も誘客に結び付く。8カ所を周遊できる広域的な体制づくりも提案したい。(三神尚子)