最賃とタコ社長(9月23日)

2023/09/23 09:20

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 中小企業の「顔」と言えば、この人。映画「男はつらいよ」に登場する印刷所のタコ社長だ。頭のてっぺんだけ刈り残したユニークな髪形。寅さんがいる隣の「とらや」に、何やかや顔を出す▼シリーズが始まったのは、昭和40年代前半。高度経済成長期と重なる。しかし、産業の果実は社会の隅々にまで行き届いていなかったのだろう。金策に追われ、はめを外すのは組合の集まりで出かけた時ぐらい。もうけの出ない仕事ばかり引き受けていたのか。「自転車操業」の言葉がよく似合う▼国の最低賃金制度は、働く人の暮らしを守る。県内では来月1日、42円上がり時給900円に改正される。岸田文雄首相は全国平均を1500円とする目標を打ち出した。物価高に苦しむ家計を支えるのが狙いという。果たして、気付いているのだろうか。「最賃」には罠[わな]がある。無理な引き上げで、求職は増えるが求人が減るかも。さじ加減にご注意を▼お役所から賃上げを求められたら、タコ社長はさぞ、慌てるだろう。勢い込んで、とらやに吹っ飛んでくる。「雇い止めするしかないよ」。人情派の寅さんならきっと、あの名文句でいさめてくれる。「それを言っちゃあ、おしまいよ」<2023・9・23>