2020年2月からの新型コロナウイルス感染症の世界的大流行により、仕事や学習などで「オンライン化」が一気に進んだ。特に国際会議や全国規模の会議は、この3年間、全てオンラインで、委員等の交代があっても一度も対面で会ったことのない方ばかりで、名刺交換さえしたことがない。オンラインでの会議は、対面での会議に比べて圧倒的に負荷が少ない。オンライン会議に慣れてしまい、正直、最近になって対面の会議はやりたくないとさえ思うことも多い。東北大学加齢医学研究所の研究結果によれば、どうやら、これは脳にサボり癖がついたらしい。
研究所の報告によると、人間の脳は大変なことをしているときほど、負荷がかかり活発に働く。負荷がかかりすぎると、ストレス過多となり、さまざまな身体的・精神的不調をもたらすが、適度な負荷は脳の活性化に必要だそうだ。
私の年齢であれば、既に「ゆるやかな脳死」が始まっているので、多少の脳のサボりは、認知症の発症を早めるぐらいらしいが、研究者が警鐘を鳴らしているのは、脳の前頭前野の成長期にある10代の子どもたちの「脳のサボり癖」の弊害だ。先の研究所の研究結果によれば、インターネットを多く使っている子どもたちほど学力が低く、脳の幅広い領域で発達が「止まってしまっている」ことが報告されている。
スマホで調べものをしていても脳への負荷が低く前頭前野は活動せず、調べた内容が記憶に残らない。スマホ等の長時間使用が習慣になることで、前頭前野の認知機能に関わる機能が正しく使われない状態が続き、「脳が壊れていく」という衝撃的な報告だ。
また、対面で会話をしているときには、複数の人たちの脳活動のリズムがそろう同期現象が起こる。これは他者と協力して共同作業等をしているときの共感や共鳴といった「誰かとつながっている」ような感覚と関係しているそうだ。恐ろしいのは、オンライン会話では脳が同期せず「ボーッとしている状態と変わらない」という報告だ。つまり、オンライン習慣というのは、私たちが生きる上で大切な機能がたくさんつまっている前頭前野を、使わせない生活習慣となる。
脳を使わないとダメになる感覚は、私の経験でもよく分かる。30年前にワープロを使いだしてから、漢字が読めるのに書けなくなった。スマホになり、さらに悪化しているのは加齢のためばかりではなさそうだ。地図アプリを使いだしてから方向音痴になった。スマホ片手に、目的地の周りを歩き回っていて、見上げたら、そこに目的地の建物があり、自分に失笑することがよくある。
2060年、1981~1996年に生まれた「デジタルネイティブ」の世代が65歳以上の多数を占めるようになる。認知症にならずにその世界を見てみたい。(西内みなみ 桜の聖母短期大学学長)