
第20回福島県議選(定数58)は無投票の9選挙区17人を除く10選挙区で、立候補者54人が12日の投開票に向け論戦を繰り広げている。1人区の勝敗が今後の勢力図を左右するとみられ、与野党対決が激しさを増している。衆院小選挙区の区割り改定で、県内選挙区が大幅に再編されるため、今回の県議選が次期衆院選を占う前哨戦としての様相を強めている。激戦区の最新情勢をルポする。(文中敬称略)
■支持複雑、争い激化 大沼郡(1)―2(三島町、金山町、昭和村、会津美里町=有権者2万297人)
山内 長 62自現(1)[公]
加藤志津佳 46 立新
(届け出順、[公]は推薦)
2003(平成15)年以来、20年ぶりの選挙戦は与野党の全面対決となっている。次期衆院選を見据えた自民党衆院議員の菅家一郎と立憲民主党衆院議員の小熊慎司による「前哨戦」としての側面があり、郡内の有権者の8割を占める大票田の会津美里町を主戦場に、戦いは激化している。
2021(令和3)年の会津美里町長選の影響も尾を引く。現町長と、前町長の流れを引き継いだ対立候補の戦いは800票余りの僅差だった。町を二分した選挙戦が町民の間にしこりを残していると見る向きもあり、支持動向は複雑化している。
「暮らしを守れるのは自民党だ。なんとしても議席を守り抜く」。山内は6日、街頭演説の最後に声を張り上げた。
山内は自民県議5期目だった現町長の町長選出馬を受け、地盤を引き継いで2021年県議補選で無投票当選した。県議選での実戦は初めてで、自民が20年間守り続けた議席の維持を掲げる。菅家の後援会組織の支援を受け、自民の県議らが連日応援に入っている。
会津美里町と昭和村を結ぶ博士峠バイパスの開通、JR只見線の全線再開通などに携わった実績を強調している。元町議、元JA職員としての人脈などを生かし、農商工関係者らの支持固めを進めている。陣営幹部は「1期目は県議の仕事を覚えるのに必死で管内をくまなく回れていなかった。盤石とは言えないが、組織力がある」と集票に力を入れる。
「子育て世代だからこそできる政治がある。若者の力で変えていく」。加藤は6日、有権者らを前に支持を訴えた。
加藤は衆院選で小熊の政策調査担当として陣営を支えてきた。自身の陣営の基盤は小熊の後援会組織で、女性集会などを重ねてきた。会津美里町長選で現町長の対立候補が集めた票が、非自民の支持者の獲得に直結するとみて囲い込みを進めている。
中学生と高校生の息子を育て、NPO法人で地域づくりに携わった経験を生かし、少子高齢化が進む郡内で子育て世代や若年層にアピールしている。交流サイト(SNS)を活用し無党派層への浸透も目指している。陣営幹部は「知名度の低さは否めないが、女性である点と若さは、20年間も無風だった大沼郡で武器になる。勝機はある」と言葉に力を込める。
◇2019年県議選結果
大沼郡(定数(1)―1)無投票
杉山 純一 62 自現(5)
■現職4人と元職混戦 会津若松市(4)―5(有権者9万6066人)
水野さち子 61 無元(2)
佐藤 義憲 48 自現(2)[公]
佐藤 郁雄 60 自現(1)[公]
渡部 優生 62 無現(2)
宮下 雅志 68 立現(4)
(届け出順、[公]は推薦)
選挙戦が折り返しを迎えた6日、中心部などに5台の選挙カーが行き交い、各候補者のお願いの声がこだました。ある陣営の関係者は「票の動きが読めない」と表情を曇らせる。支持動向が複雑に交錯する中、福島県政界復帰を目指す無所属の元職が食い込みを狙い、自民党、立憲民主党、無所属の現職が自身の支持層の流出を防ごうと躍起で、混戦模様となっている。
「台風の目」とされるのは無所属の元職水野だ。参院選で市内の2万7819票、今夏の市長選で1万3738票を集めた。知名度があり、無党派層などの支持獲得に力を入れる。前々回からトップ当選を続ける自民の現職佐藤義憲と、再選を狙う現職佐藤郁雄は警戒を強める。女性票の動きが読みにくいと分析し、農業団体や医療団体などを丁寧に回る。5選を目指す立民の現職宮下と、前回2番目の票を獲得した無所属の現職渡部は同じ県議会会派「県民連合」に所属。ともに実績を強調して後援会組織を固め、新たな支持獲得を狙う。
公明党は自民の現職2人を推薦し、共産党は自主投票としている。
ある現職陣営の関係者は「水野の(参院選と市長選の)票がそのまま県議選の票につながるわけではない」とする。各陣営は日々刻々と変わる情勢を注視している。
前回の投票率は38・23%で過去最低だった。票の奪い合いは激しさを増しているが、顔触れに真新しさはなく盛り上がりに欠ける。共産や社民、無党派層の票の行方が注目される。
水野は地元の一箕地区を軸に、女性や子育て世代に支持を呼びかける。
佐藤義憲は西部地区を足掛かりに、中心部などで若者らへの浸透を進める。
佐藤郁雄は城西地区が地盤で、会津中央病院の支援で票の上積みを目指す。
渡部は地元の河東地区で票を固め、連合福島傘下の労組に働きかけを強める。
宮下は地盤の中心部を拠点として幅広い世代に支持拡大を図る。