萬画の力(11月8日)

2023/11/08 08:50

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 敬遠されがちな古典も、これなら取っ付きやすい。「資本論」「カラマーゾフの兄弟」「戦争と平和」も。コミック化が続々進む。児童文学者で反戦運動家、吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」の漫画版はかつてベストセラーに輝いた▼石ノ森章太郎は「萬画」と呼ぶよう提唱した。あらゆる事象を表現でき、万人に愛される。その無限の可能性を「萬」の字に託した。自身も「マンガ日本の歴史」シリーズを著し、歴史上の人物の物語を紡いだ。各時代の空気感まで描き、新たな地平を開いた▼郷土の偉人朝河貫一の漫画本が先月、出版された。二本松市に生まれ、米国・エール大教授を務めた世界的な歴史学者だ。作者は郡山市の安積国造神社の宮司安藤智重さん。姻戚関係にあり、知名度をさらに高めたいとシナリオを書く。イラストレーターに依頼して140ページ余りの伝記を完成させた▼朝河が、ルーズベルト大統領から昭和天皇への親書草案を作る描写が圧巻だ。開戦回避に向け奔走した。熱血漢の息遣いが生き生きと伝わってくる。子どもたちにこそ手に取ってほしい。「無益な戦争を今すぐにやめて」。反戦を万人に訴える力の芽を萬画が授けてくれる。<2023・11・8>