論説

【薄らぐ震災知識】教育を通じた伝承を(11月24日)

2023/11/24 08:49

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 福島大教育推進機構の前川直哉准教授らが東日本大震災と東京電力福島第1原発事故に関する福大生の知識を調べたところ、正答率が年々低下している現状が浮かび上がった。惨禍の記憶の風化を客観的に示した調査結果は貴重だ。県内外で共有し、効果的、持続的な伝承の取り組みに結び付ける必要がある。

 調査は2019年度から毎年、選択授業「ふくしま未来学入門Ⅰ」の受講学生を対象に同じ20問(全て5項目選択式、20点満点)で実施している。新型コロナ禍で調査を見送った2020年度を除き、2022年度までの3年間、計968人分の回答を集計した。平均得点は初年度の9・5点から8・6点、8・1点と年々下がっている。

 双葉町の住民帰還率を問う設問で、「現在も全町避難中」(調査当時)と正答できた学生は2019年度の28・0%から17・8%に低下した。福島第1原発でつくられた電気の供給先について、2019年度は「全てが首都圏など東電管内」の正答率が49・6%だったが、33・9%まで落ち込んだ。

 前川氏らは「風化は確実に進行している」と分析し、学校や社会全体で災禍の知識を伝えていく必要性を指摘する。すでに小中高校の多くの教科書で震災と原発事故が取り上げられている。今後は若い世代が関心を持って学び、自分事として受け止められるような工夫が年を重ねるごとに一段と求められてくる。

 防災、エネルギーなどの分野で将来に備える上でも、教育を通じて風化を防ぐ視点は重要だ。放射線の人体への影響を表す「シーベルト」の定義や放射性物質セシウム134の半減期など正答率が上昇した項目も見受けられた。高校までの放射線教育が成果を上げているとの見方もある。細かく分析し、より効果的な学びにつなげてほしい。

 本県には行政や民間団体などがまとめた被災の経験や教訓、現状に関する動画が豊富にある。教材としての活用も県内外に呼びかけてはどうか。福島民報社が震災伝承のために企画・制作した絵本「きぼうのとり」の朗読動画も手軽に利用できる。教育旅行などでの被災地訪問をはじめ、県内で育成が進む語り部を生かす取り組みも進めてもらいたい。(渡部育夫)