国家プロジェクト「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想」の進み具合を国や県、市町村などが点検する法定分科会は24日、福島市で4年ぶりに開かれた。2019年策定の指針「産業発展の青写真」に基づき浜通りなどへの企業立地が進んだ一方、福島ロボットテストフィールド(ロボテス、南相馬市・浪江町)での「空飛ぶクルマ」の試験拠点化、再生可能エネルギー分野のサプライチェーン(供給網)形成などが新たな課題となっている。内堀雅雄知事がイノベ構想の具現化をさらに加速させるため、次回会合で「青写真」の見直しを含めて議論したい意向を示し、国側も一致した。
分科会は復興庁、経済産業省、県の主催で、イノベ構想と同様に福島復興再生特別措置法に位置づけられている。「青写真」の進捗(しんちょく)状況、新たな課題を共有するために開催し、浜通りなどの市町村長、有識者、関係省庁幹部らが出席した。
ロボテスは国内外の企業や研究機関に実証拠点として活用されているものの、7割超がドローンの利用に偏り、災害対応ロボットやインフラ点検ロボットなど多様な利活用を促進する必要があるとした。補助事業が不採択になり進出企業が撤退する事例もあり、地域に根付かせる取り組みの重要性を挙げた。
災害時の物資輸送や山間部の人の移動などの手段として期待される「空飛ぶクルマ」を巡っては、開発事業者が飛行試験に求める2キロ四方の平場は現在、国内に適地がない。このため、ロボテスが空飛ぶクルマの試験拠点としての役割を担えるよう、環境整備を進める必要があるとした。
再生可能エネルギーの導入促進に向けては発電事業者の立地はある一方で最終製品メーカーの立地が少なく、県内での供給網形成には至っていない。さまざまな電力を活用する分散型エネルギーの導入が広がっているが、地域でエネルギーを有効活用するスマート社会の事業展開は少ないと指摘した。
農林水産業分野は経営の効率化に加え、家畜の遺伝的改良による生産基盤強化が課題で、医療関連では医療機器分野に興味を示すロボット関連企業が多い一方、参入に至るケースは少ないと分析。廃炉分野は廃炉作業の進捗に応じた地元企業の技術力向上を促進させる必要があるとした。
内堀知事は会議で「復興の進捗状況や社会経済情勢の変化を踏まえ、イノベ構想の取り組みを前に進めることが重要だ」と述べ、平木大作復興副大臣らが青写真の磨き上げに賛同した。青写真の見直しや新たな計画の策定などが想定されるが、詳細は今後詰める。次回会合の日程も主催者間で協議するという。
【イノベ構想の重点6分野の現状と課題】
(1)廃炉
◆地元企業による参画の拡大
▼廃炉作業の進捗に応じた地元企業の技術力向上
▼地元企業の調達拡大が図られている。今後、より継続性のある案件への参画を促進
◆研究開発・人材育成
▼廃炉現場を支える研究課題の具体化
▼廃炉現場への研究開発成果の橋渡し
▼幅広い大学や企業の人材交流、人材育成の基盤強化
(2)ロボット・ドローン
◆福島ロボットテストフィールド(ロボテス)の活用促進
▼ロボテス利用の7割超がドローンに偏っている
▼災害対応ロボやインフラ点検ロボなどの利活用促進
▼補助事業不採択で事業継続困難の進出企業が撤退
▼収益の確保など事業化に向けた社会実装の促進
◆ロボテスを活用した制度整備
▼ドローンのガイドラインに対応できる高度人材の確保
▼複数ドローン同時飛行を想定した運航管理モデル整備
▼空飛ぶクルマの試験拠点としてのロボテス環境整備
(3)エネルギー・環境・リサイクル
◆再生可能エネルギー導入促進
▼系統制約で事業者による採算性検討が困難
▼再エネ発電事業者の立地はあるが最終製品メーカーの立地が少なく県内サプライチェーンの形成に至らず
▼使用済み蓄電池の回収量が少ない
▼使用済み蓄電池の安全な解体、精錬方法の確立
▼国内風力発電機メーカーがなく海外規格に準拠
▼産総研福島再生可能エネルギー研究所と県内企業による共同研究145件のうち事業化したのは51件
◆水素社会のモデル構築
▼モビリティー分野での利活用や産業分野での実証が進んでいるが既存燃料とのコスト差、地元企業参入に課題
▼水素を作る、運ぶ、使うの経済的・技術的課題
◆スマートコミュニティー
▼市町村による事業可能性調査(県補助)からスマートコミュニティーへの事業展開が少ない
◆環境・リサイクル
▼実用化・事業化に期間を要す。または事業中止になる
▼再利用が難しい素材や有害物質の受け入れ先の確保
(4)農林水産業
◆農業
▼避難指示解除時期によって営農再開の進捗に差
▼新規就農者・企業への長期の伴走支援
◆畜産業
▼家畜の遺伝的改良による生産基盤の強化
◆林業
▼離職率や労災頻度が高いためスマート林業の導入
◆水産業
▼処理水海洋放出に伴う新たな風評の発生が懸念される中、将来にわたり安心して事業可能な環境整備
(5)医療関連
◆研究開発から事業化まで一貫した支援
▼開所から7年の「ふくしま医療機器開発支援センター」の認知度が低く、県内外の企業からの受託試験数が伸び悩み
◆参入の促進
▼医療機器分野に興味を示すロボット分野企業は多いが参入に至るケースは少ない
(6)航空宇宙
◆産業の裾野拡大・産業クラスターの形成
▼コロナ禍で大打撃を受けた航空機産業への参入の維持・拡大を再び進めていく必要性
◆空飛ぶクルマ関連産業の集積
▼飛行試験には2キロ四方の平場が必要とのニーズ。ロボテスの試験環境の確保が課題