パリのグラン・カフェで1895年12月、リュミエール兄弟は「工場の出口」「列車の到着」といった数本をスクリーンに映し出す。白と黒、光と影で刻まれた動く人々と風景に、観衆は驚愕[きょうがく]する。シネマトグラフの誕生である。きょう1日は映画の日▼光が重要な役を演じる場は、映画のみとは限らない。JR白河駅の駅舎に今月、ステンドグラスがお目見えする。地元の職人が精魂を注いだ。現在の姿となって102年。歴史ある駅舎にふさわしい装飾と、市民の多くが歓迎する。枕ことばにもなった「大正ロマン」に、実体が追い付いたとも言えようか▼はめ込むガラスの種類は数多く、ほとんどが手作り。時間をかけて世界中から集めた。今では入手不可能な希少なものも少なくない。天候や時刻で外光は刻一刻と変わる。希有[けう]なガラスを透過し屋内に注ぐのは、瞬時に消える唯一無二の光と言っていい▼「美しいものは注目を求めない」(映画「LIFE!」)。かつての特急・急行停車駅は、主要な役目を新幹線が止まる隣駅に譲った。各駅停車の利用者は、構内に身を置く幸運をかみしめられるだろう。目を引き付けてやまない光の劇場が、間もなく開演を迎える。<2023・12・1>