論説

【廃炉の特許】地元企業に移転促進を(12月16日)

2023/12/16 08:51

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 東京電力福島第1原発の廃炉事業に伴う特許出願が先月末までに90件あり、38件が登録された。特殊な環境下で続けられる現場作業からは従来、想定されていなかった技術が生まれる可能性がある。東電は廃炉に伴う「地元経済の基盤創造」を目標に掲げている。特許技術を県内企業に広く移転し、地元産業界の活性化を後押しする体制づくりを早急に進めるべきだ。

 福島第1原発では廃炉作業を支える技術が次々生まれ、事故が起きた2011(平成23)年からほぼ毎年、特許出願がある。ここ3年では2021(令和3)年は10件、2022年は15件、今年は5件となっている。地下水の流入を防ぐ凍土遮水壁の造成をはじめ、被ばく線量の低減対策を講じた昇降機、金属から放射性物質を除去して再生する手法など土木、機械といった複数の分野にまたがる。大熊町のエイブルと共同で取り組んだ排気筒の遠隔撤去装置の特許は2018年12月に登録された。

 特許出願の案件には、他の原発の廃炉や原子力関連の作業現場で求められる技術が少なからず含まれていると考えられる。社内の知的財産を扱う部署が中心となり、東電単独で特許の権利を有する例では、技術の応用可能性なども合わせて精査し、県内企業に技術を移す仕組みを構築してほしい。他社と共同出願した場合は、相手企業が県内企業と連携して新たな事業を展開したり、共に製品開発に当たったりする取り組みを強く支援してもらいたい。

 県内企業が廃炉事業に参入する際の窓口となる「マッチングサポート事務局」への登録は200社近くに上る。東電と福島イノベーション・コースト構想推進機構などが2020年度に組織を設けて以降、事業成約件数は右肩上がりで増加し、約850件に達しているという。

 ただ、先月開かれたイノベーション・コースト構想の進捗[しんちょく]状況を確認する法定分科会で、国と県による事務局は廃炉事業への地元参入の拡大について「技術力向上に向けさらなる取り組みが必要」との認識を示した。福島第1原発での業務を受注するのみならず、特許取得を目指す積極的な下請け企業が複数現れるよう、県内産業界の機運醸成も必要になる。(菅野龍太)