2023(令和5)年が間もなく暮れる。昨年末、この欄で越年課題を挙げたが、多くのテーマが転換点を迎えた一年だった。後世になって「2023年が歴史の節目だった」と評価されるかもしれない。次世代のために好転の一歩を踏み出したい。
被災地復興の最も大きな課題だった東京電力福島第1原発の処理水は8月末に海洋放出が始まった。政府は関係閣僚会議で放出を正式決定した2日後に実施に踏み切った。直前に岸田文雄首相は全国漁業協同組合連合会(全漁連)の坂本雅信会長と面会したが、坂本会長は反対の姿勢を崩さなかった。普通に考えれば「理解なき強行」と判断せざるを得ない。放出までの過程にはいまだ不信感が残る。
本紙は、処理水の科学的安全性は認めながらも、国民理解が進んでいない中での放出には疑問を呈してきた。強行されれば、さまざまな風評に苦しんできた県民がさらに苦境に立たされることが想像されたからだ。今のところ「常磐もの」と呼ばれる本県自慢の海産物に大きな影響は出ていないのは幸いだ。本紙の訴えは届かなかったが、県民の立場で主張を続けたことが現在の落ち着いた状況を作り出す一因となっていると確信している。
海洋放出という新たなステージに入ったばかりだが、東電は処理水に関連する作業で作業員が放射性物質を飛散させ、入院するトラブルを起こした。緊張感を持続するチェック体制の確立を求めたい。
放射線量が比較的高い帰還困難区域も一つの転換点を迎えたと言えるだろう。区域内に設定された特定復興再生拠点区域(復興拠点)は6町村全てで避難指示が解除された。区域全体の解除に向けた新たな取り組みも始まり、期待がかかる。
県内、国内に目を向ければ新型コロナウイルス感染症の法的位置付けが季節性インフルエンザと同等の「5類」に移行した。物価高騰などのマイナス要素はあるが、経済活動は反転攻勢をかけたい。
年末に発覚した自民党安倍派の政治資金パーティーの裏金問題は刑事事件に発展した。「政治とカネ」を巡る問題に対する国民の不信にどう対応するか。こちらも大きな転換点とすることができるか注目したい。(安斎康史)