論説

【アートツーリズム】ゴッホ展を好機に(1月13日)

2024/01/13 08:52

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 2026(令和8)年2月から福島市の県立美術館で開かれる「大ファン・ゴッホ展」(仮題)を機に、県は県内を巡るアートツーリズムを展開する。世界的な名画の来日に合わせ、県内各地の美術作品などを観光資源と捉えて周遊を促す。芸術文化の視点で地域の魅力を掘り起こし、新たな誘客策につなげたい。

 ゴッホ展は第1期2026年2月21日~5月10日、第2期2027年6月19日~9月26日の計179日間に及ぶ長期開催となる。「夜のカフェテラス」(第1期)と「アルルの跳ね橋」(第2期)を目玉に多くの傑作がオランダのクレラー・ミュラー美術館から届く。

 美術ファンを中心に本県への関心の広がりが予想され、県は県内の多様な芸術も楽しんでもらうアートツーリズムを企画した。自然や伝統文化、郷土料理なども「体験できる芸術」と見なし、旅行商品を練り上げる想定だが、まずは芸術分野の地域資源をしっかりと軸に据える必要がある。

 サルバドール・ダリの絵画収集で知られる北塩原村の諸橋近代美術館など、本県は特色豊かな公立、民間の美術館を有している。二本松市出身の日本画家・大山忠作、会津が生んだ版画家・斎藤清らの名を冠した施設もある。ツアー設定に向けては各館をはじめ市町村、観光団体などとの連携が求められる。

 ゴッホ展が始まる2026年は東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生から15年に当たり、復興の歩みを学ぶホープツーリズムとの関わりを持たせるのも意義深い。浪江町内では、知的障害のあるアーティストが町民の思いを巨大壁画にする取り組みが各地で進んでおり、見どころになり得る。

 福島医大はゴッホ展に合わせ、芸術作品で心身を癒やすアートセラピーを研究する。健康への効果を数値化する構想で、成果を取り込めばツアーの魅力は高まるはずだ。

 会津若松市の葵高生は「勝手に美術館応援プロジェクト」と銘打ち、県内画家の作品をモチーフにしたバッグ作りなどに取り組んでいる。こうした若い世代の発想を生かす姿勢も大切だ。一過性の盛り上がりで終わらせず、観光振興や移住などにつなげるには、幅広い県民の支えが欠かせない。(渡部育夫)