東京電力福島第1原発事故に伴う特定帰還居住区域の除染が大熊、双葉両町で昨年末に始まるなど、避難指示解除に向けた動きが本格化している。国は宅地、道路、集会所、墓地などを「日常生活圏」として除染する方針だが、家屋から離れた農地や公園などは明記されていない。暮らしに欠かせない場所は個々に異なる。国は住民の意向に寄り添い、除染する範囲を丁寧に設定するよう求めたい。
特定帰還居住区域は昨年6月、帰還困難区域内に新設された。古里での生活を望む住民が2020年代に戻れるよう除染する。大熊、双葉両町に続き、浪江町も近く国の認定を受ける見通しだ。富岡町は今月中に復興再生計画を策定する。大熊、双葉両町は区域を拡大していく方針だ。
大熊町は先行モデル地域として下野上1区の約60ヘクタールが認定を受け、家屋解体や表土の剥ぎ取りなどが進められている。日常生活に必要な生活圏の設定によって道路と宅地間の農地なども範囲に含まれ、面的な除染が行われる。町は残る9行政区の計画を年度内にまとめ、新年度から除染に着手するとしている。
ただ、国は住民の声を酌み取り、神社なども除染するとしているものの、生活圏の定義はあいまいだ。宅地や道路から離れた水田などの農地は今後の協議によって除染の有無を決めるとしている。このため、「今後は面的に除染できるとは限らない」と危惧する声も聞く。
避難前、農業を生きがいにしていた住民は多い。そうした人から見れば、農地は日常生活に不可欠な場所と言える。朝夕の散歩道や古里の景色など季節ごとに豊かさや安らぎを感じてきた思い出も住民にはそれぞれある。帰還をどれほど望んでも、帰還困難区域が身近にあり続ける制限された生活が待っているようでは、二の足を踏む事態も生じかねない。
大熊町の住民説明会では「戻れるようにしてから帰還の意向を確認するのが筋だ」との声が上がった。限られた予算の中で住民の帰還を進めるには、避難指示解除が段階的にならざるを得ないのを理解はする。ならば、住民が納得できる生活圏を再生するのと並行し、国は特定帰還居住区域外の解除工程も早期に示すべきだ。(円谷真路)