論説

【旧豊田貯水池活用】理解深める工夫が不足(2月1日)

2024/02/01 08:51

  • Facebookで共有
  • Twitterで共有

 郡山市の宝来屋郡山総合体育館東側にある旧豊田貯水池が一般開放された。堰堤[えんてい]部を含む面積は8・8ヘクタール、東京ドーム約2個分に及ぶ未利用地の使い道は懸案となっている。管理者の市は一般開放に合わせて意見を募っているが、議論が活発とは言いがたい。論点を分かりやすく示し、理解醸成を図りながら望ましい利活用の姿を描いてほしい。

 旧貯水池は2013(平成25)年に飲用貯水池の役割を終え、水が抜かれた。市は昨年12月の一般開放を前に一周約1キロの園路を整備した。松並木の枝が覆い、趣深い。日展評議員だった市出身の彫刻家、故佐藤静司さんの男女像が飾られ、散策に最適だ。

 市と市議会は市民アンケートや有識者懇談会を実施し、市は2021(令和3)年、「市民の皆様との意見交換のたたき台」をまとめた。「全ての世代が健康で過ごせるみどりの空間」を目指すとし、災害対応、歴史、生態系、学び、健康の機能を示す。

 ただ、「たたき台」の認識が深まっているかは疑問符が付く。情報提供は不十分で、見学会や講演会の参加者は毎回30人ほどにとどまる。現在の意見公募は期限を切っておらず、スケジュール感を欠く。関心を薄れさせないため、発信力を強める必要がある。

 利活用に当たり、歴史的価値、防災、景観に注目したい。旧貯水池の前身は1656(明暦2)年完成の農業用ため池「下ノ池」で、改修を経て1912(明治45)年、豊田浄水場・貯水池が完成、市街地に飲用水を届けた。近代水道施設として全国23番目、東北では秋田、青森両県に次ぎ、れんが造りの水路、堤を補強する石垣などが残る。農業用水、飲用水を求めて格闘した先人の苦労と開拓者精神を伝える遺産と言えよう。

 貯留水量は約12万立方メートルあり、雨水をため、周囲の水害を最小化する役割を果たしていることも留意すべきだ。

 市都市計画マスタープラン2015で「歴史と緑の生活文化軸」と位置付けた市街地東西軸上にあり、麓山公園、開成山公園、開成山大神宮と連なる緑と水に恵まれた良好な都市空間を形成している。一方で、慢性的な交通渋滞解決のため公共交通のターミナル、駐車場設置を求める声もあり、自然、歴史と利便性の共存を望みたい。(鞍田炎)