【霞む最終処分】(22)第4部「実証事業の行方」 除染土使い農地造成 再生利用 全国拡大狙う

2024/03/03 09:50

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除染土壌を再生利用し造成した農地が広がる飯舘村長泥の復興拠点
除染土壌を再生利用し造成した農地が広がる飯舘村長泥の復興拠点

 かつて飯舘村長泥の中心地として商店や民家が立ち並んでいた十字路「長泥十文字」周辺に、なだらかな農地が広がる。東京電力福島第1原発事故に伴う除染で発生した土壌を使い造成された田畑は、本格的な営農再開の日を静かに待つ。

 村の南端に位置する長泥は村内で唯一、原発事故により帰還困難区域となった行政区だ。区域内に設けられた特定復興再生拠点区域(復興拠点)と、拠点外の長泥曲田公園は2023(令和5)年5月に避難指示が解除された。だが、現存する住宅は10軒ほど。住民の帰還は進んでおらず、暮らしの息吹は感じられない。

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 環境省は中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)に運び込んだ大量の除染廃棄物の県外最終処分の実現に向け、処分量を減らすために土壌の再生利用を目指している。その足掛かりとして、2019年度から長泥で再生利用の実証事業を本格化させてきた。村内の除染土壌のうち1キロ当たり5千ベクレル以下の土を農地の盛り土として埋め立て、汚染されていない土を使い50センチの厚さで覆う。農地計22ヘクタールを造成する計画で工事を進めている。

 これまでに一部の農地でコメやコマツナ、キャベツなどを試験的に栽培した。作物に含まれる放射性セシウムは全て食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を下回り、担当者は「安全性は確認できた」としている。

 2018(平成30)年度から2023年度末までに、長泥での実証事業に充てる予算は340億円程度。多額の予算を投じて進める長泥での成果を踏まえ、全国に再生利用を広げていく―。環境省は青写真を描く。

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 長泥の復興拠点案には当初、実証事業の農地は含まれていなかった。政府は長泥が村内の一行政区にすぎないなどの理由から、大規模な拠点整備には否定的だった。住民らで構成する長泥行政区は2017年8月、せめて交流の場所だけでも整備してほしいと、公民館周辺などの避難指示を解除する「ミニ復興拠点」の計画案を村に提出した。2ヘクタールほどの小さな拠点構想は、住民による妥協の産物だった。

 環境省は2017年4月から南相馬市小高区の仮置き場で除染土壌を使った試験盛り土を造成し、空間放射線量などを確認する実証事業を進めていた。村職員から事業の概要を聞いた当時の村長・菅野典雄は「荒れた土地を整え線量が下がるのなら、長泥で実証事業をやる価値はある」と直感した。

 村は長泥での実施を視野に、行政区との協議を本格化させ了承を得た。除染土壌の再生利用を実現させたい環境省、復興の在り方を探っている村、帰還への道筋を付けたい長泥行政区の思惑が一致した。

 同年11月、3者は再生利用の実証事業の実施に合意した。行政区長だった鴫原良友は「汚れた土の受け入れを歓迎する人はいないが、除染で放射線量が下がれば帰還につながる可能性があった。苦渋の選択だった」と明かす。(敬称略)


 東京電力福島第1原発事故に伴う除染土壌の再生利用に向けた実証事業は県内で一部実施されているものの、県外では行き詰まっている。それぞれの事情や思惑を探る。