【霞む最終処分】(48)第9部 高レベル放射性廃棄物 寿都町㊦ 調査受け入れ町二分 町長「町民が最終判断」

2024/06/08 10:40

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国が前面に立ち、最終処分場選定を進めるべきと訴える片岡
国が前面に立ち、最終処分場選定を進めるべきと訴える片岡

 北海道南西部の寿都(すっつ)町は2020(令和2)年10月、高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた第1段階「文献調査」に応募した。

 進まない問題に一石を投じ、町には地域振興に充てる交付金が入る。地盤の安全性も確認できる―。こうした判断から町長の片岡春雄は応募を模索した。「調査に手を挙げれば、国にも住民にも喜ばれると考えていた」。取材に応じた今年5月、当時の「誤算」を振り返った。

 応募の2カ月前、町の検討姿勢が一部報道で表に出ると、片岡は「計算外」という強い反対に直面した。静かな港町は賛成派、反対派に分かれて揺れる。複数回の住民説明会を重ねた末に「最後は自身の判断」で調査の実施を申し出た。

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 「調査には賛成だ。人が減り続ける中、交付金は町にとってプラスになる」。町内で電器店を営む田中則之は文献調査と、第2段階の「概要調査」は一括で進めるべきと語る。ただ、処分場建設までは認めていない。資料の分析と地層そのものを調べた結果がそろわない以上、処分地としての適性は判断できない。「結果が出ない限り賛否は示せない」と事態の推移を見守る。

 反対の立場を取る町内の水産加工業吉野寿彦は「なし崩し的に最終処分場ができるのではないか」と町や国への不信を募らせる。処分場の必要性は分かっていても自然豊かな古里には要らない。水産資源を生かせば、交付金に頼らず町は存続できると信じる。「全国から注目されて以来、町民が二分された」とやるせなさを漏らす。

 道内では、寿都町と前後し神恵内村でも文献調査が始まった。着手から3年超が過ぎた今年2月、原子力発電環境整備機構(NUMO)は「2町村とも概要調査に進むことが可能」との報告書案を示した。次の段階に移るには町村長に加えて知事の同意が要るが、道知事の鈴木直道は「反対の意見を述べる」としている。

 「では、増え続ける廃棄物をどうするのか」。先行きが不透明な中、片岡は現行の候補地選定手続きの妥当性に疑問を呈す。

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 片岡は「最終的に処分場を建設するかどうかは町民の判断」と語る。文献調査に応募後の2021年3月に住民投票条例を制定。概要調査に進む前に、町民の意思を問うつもりだ。

 文献調査の対象となるには①市町村が応募②国からの申し入れ受諾―の二つの道がある。寿都町と神恵内村の応募から3年半余りを経て、今年5月には佐賀県玄海町が調査受け入れを表明し、注目を集めた。

 それでも、片岡の目には問題を巡る国民の議論は深まっていないと映る。「寿都のように、住民の賛否が割れる様子を見れば及び腰になる首長は多いだろう」。高レベル放射性廃棄物の最終処分は国策との前提に立ち、候補地を決める仕組みを根本から改めるべきではないか―。「国が候補地を選び、調べる形にしなければ事態は進まない」と改善を求める。

 片岡は東京電力福島第1原発事故に伴い福島県内で生じた除染廃棄物や、溶融核燃料(デブリ)にも注目する。除染廃棄物は県外最終処分が法で定められているが、2025年度以降の方針や工程は示されていない。高レベル放射性廃棄物と向き合う立場から「国は常に難題を先送りしている」と主張する。「法を順守するならば国は福島の廃棄物の処分地選定を早期に進めるべきだ。地元が積極的に声を上げることも重要だ」(敬称略)