充実と感謝の涙 バド女子単 大堀(福島県の富岡高出身)準々決勝敗退

2024/08/03 23:23

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 【パリで本社報道部副部長・鈴木宏謙】試合後の涙には、力を出し尽くした充実感と周囲への感謝が詰まっていた。3日に行われたパリ五輪バドミントン女子シングルス準々決勝。世界ランキング10位で福島県会津若松市出身の大堀彩(27)=トナミ運輸、富岡高出身=は元五輪女王に敗れた。引退まで考えた時期を乗り越え、たどり着いた夢舞台。幼少期から培った力を信じ、8強まで駆け上がった。「センターコートでやりきる試合ができて満足」。4試合で確かな足跡を刻み、初挑戦の五輪を終えた。

 「自分ならできる」と意気込み、2016年リオデジャネイロ五輪金メダリスト、カロリナ・マリン(31)=スペイン=に挑んだ。持ち味の強打と運動量で序盤にリードを奪ったが、王座奪還を狙う相手の強さと巧みな技術に「攻めも守りも相手が上だった」と潔かった。

 競技人生の「集大成」と位置づけた舞台は特別な空間だった。初戦から連日、満員の観客席に五輪仕様の装飾。何試合やっても緊張はほぐれなかった。「メダルはほしかったけど、今できることは全て出せた。合格」と胸を張った。

 富岡一中、富岡高時代から各種大会で活躍し、周囲から将来を期待された。ただ、社会人になると成績は伸び悩み、2022年には主要国際大会に派遣されるA代表を外れた。高校時代の監督で、トナミ運輸でコーチを務める父均さん(56)に「辞めたい」と打ち明けると、「後悔しないように」と諭された。あと1年間だけ頑張ろう―と思い直してA代表に復帰。1年間に及ぶ、五輪代表を巡る選考レースを日本勢2番手で勝ち抜いて出場権を得た。

 敗退が決まり、観客席を見渡すと「一番の理解者」という均さんや、初めて海外の大会を観戦した母麻紀さん(56)や所属先の関係者、日本ファンの姿が目に入った。苦しい時期を支えてくれた人々への思いがこみ上げ、涙を抑えきれなかった。「皆さんに感謝でいっぱいです」と笑顔を浮かべた。

 「良く頑張った。ありがとう」。大堀の五輪での全4試合を会場で見届けた均さんは、退場する娘の背中に語りかけた。ともに実業団選手だった均さんと麻紀さんにとっても五輪は夢の場所。「良くここまで耐えたな」と目頭を押さえた。

 戦い終えた娘が姿を見せると、麻紀さんは優しく抱きしめ、均さんはそっと頭をなでた。