
【パリで本社報道部副部長・鈴木宏謙】最終レースに勝利への執念と熟練の経験が凝縮されていた。8日(日本時間9日未明)のパリ五輪自転車トラック男子オムニアム。古殿町出身の窪木一茂(35)=ブリヂストン、学法石川高出身=は4本目のポイントレースに10位から出ると、果敢に前を狙った。「攻める楽しさを感じた」。快走で大量得点を挙げ、表彰台に迫る6位に食い込んだ。入賞という形で8年前の敗退からの成長と、メダルを狙える力を証明した第一人者は10日(日本時間11日未明)の男子マディソンに全てを注ぐ。
ルールの異なる4つの中距離種目(スクラッチ、テンポレース、エリミネーション、ポイントレース)の総合成績を競うオムニアムは速さに加え、効果的に得点するための体力配分、駆け引きなど、選手としての総合力が問われる。
「流れを決める」と重視したのが、一周250メートルのバンクを40周(10キロ)して着順を競う最初のスクラッチだった。出場22選手のうち5位で32ポイントを取り、上々の滑り出しを見せた。ただ、続くテンポレースで15位と失速。2周に一度、最後尾が脱落していくエリミネーションも10位と伸び悩んだ。「守りに入った」と窪木。一桁順位を保てず、想定した3位以内には遠い10位でポイントレースを迎えた。
25キロを走るポイントレースは10周ごとの上位への配点に加え、後続を周回遅れにすれば20点が入る。得点の推移を伝える掲示板を横目に、長年培った勝負勘で「ギリギリのところで走った」という余力の使いどころを見極めた。序盤と終盤に加点し、全得点(113ポイント)の約4割に当たる47点をたたき出した。
学法石川高で自転車競技と出合い、日大に進んだ。卒業後は本場・欧州での武者修行も経験。入賞を狙った2016年リオデジャネイロ五輪のオムニアムで14位に終わると、スプリント力を磨こうと競輪に挑戦した。飽くなき向上心が、世界と戦う体を支えてきた。
今季はカナダで4月に開かれた国際大会ネーションズカップ第3戦のこの種目で2位。五輪で戦う各国の好敵手を抑えての好結果に手応えを深めた。「古里にメダルを持ち帰る」。5月の代表発表会見、6月の直前合宿―。パリでの目標を問われるたび、前向きな言葉を発してきた。
個人種目で表彰台を逃した心境を「悔いが残る」と明かすが、メダル獲得を掲げる自信の根拠は存分に示した。10日(日本時間11日未明)に橋本英也(30)=ブリヂストン=と組むマディソンが控える。「調子の良さは示せた。マディソンに向けて準備する」と今大会最後の大一番に目を向けた。