恋の未練が静かに胸を打つ。1977(昭和52)年に大ヒットした「あずさ2号」は、ともに過ごした男性への別れの告白だ。新人の兄弟デュオ「狩人」が切々と女心を歌い上げた▼8時ちょうど発の中央線特急で、別な恋人と信濃路をたどるという。行く先々で昔を思い出すが、その寂しさが自分を変えてくれると言い聞かせる。翌年には山口百恵さんの代表曲「いい日旅立ち」がリリースされた。高度経済成長が終わりを告げた頃。やすらぎを求め始めた人の心を旅情が満たした▼カラオケの十八番[おはこ]は「あずさ2号」という。衆院選で大幅に議席を伸ばした国民民主党の玉木雄一郎代表。与野党双方から秋波を送られ、今や時の人の感もある。立憲民主党との会談を拒否したと伝わった。政治活動の根っこは一緒。解散直前、内閣不信任決議案をともに提出した。♪私は 私は あなたから旅立ちます―。かの名曲の歌詞が心をよぎる▼政策ごとに相手との距離を測る各党首間のラブコールに、永田町は何かとかまびすしい。新たなデュオはたまた、トリオやカルテットまで結成されれば混迷はさらに深まる。漂流の先に、国民を癒やす豊かな旅情は生まれるか。<2024・11・1>