東京電力福島第1原発事故に伴う除染土壌の県外最終処分を巡り、環境省が先ごろ公表した工程表は、搬出先決定などの具体的な時期を示していない。候補地の選定までに解決すべき課題が多く、時間軸を見通せないのが実情のようだ。法律で定めた2045年3月の最終処分の期限まで、残り20年しかない。国は緊張感を高め、取り組みを加速すべきだ。
工程表では、処分量を効率的に減容する技術開発などを2025(令和7)年度から進めつつ、最終処分や運搬に必要な施設の在り方を検討していく。処分場での土壌の管理期間がどの程度になるかも見越した上で、2030年度ごろまでに候補地決定の手順をまとめ、選定作業に着手するとしている。
候補地決定から稼働までには用地取得や施設の建設、搬入などに年単位の時間を要するとみられる。限られた期間で全ての事業を完了させるには、目標年度を早期に定め、着実に実行する必要がある。
工程の中でも、土壌の搬出先を選定する手続きは最難関であり、長い年月を費やす可能性がある。候補地の絞り込みをはじめ、自治体や住民の理解を得る過程で反発も予想される。関東圏の3カ所で計画された土壌再生利用の実証事業が、地元の反対で頓挫した実例もある。安全面や風評に対する地域の不安を解消するには、環境への影響などを分かりやすく丁寧に説明していかねばならない。長期的な視点に立ち、粘り強い対応が求められるだろう。
全国的な理解醸成の一つとして、最終処分の完了目標に当たる2045年ごろに社会の中心となる若者への対策を強化する方針も工程表に盛り込まれた。中間貯蔵施設などの視察を受け入れるほか、交流サイト(SNS)、広告、各種イベントなどの活用を想定している。幅広い世代がこの問題を自分事として受け止められるよう、国民のさまざまな思いをくみ取りながらの戦略的で正確な情報発信を期待したい。
政府は全閣僚会議を設け、最終処分の具体化に総力を挙げる構えを見せている。今後20年にわたる取り組みを強力に推進するには、環境省をはじめとする関係省庁や国会議員の当事者意識の高まりも欠かせない。(角田守良)