中間貯蔵施設(福島県大熊・双葉町)が東京電力福島第1原発事故に伴う除染土壌を受け入れ始め、13日で10年となる。2045年3月までに県外で最終処分すると法律で定めているが、国は具体的な道筋を示せていない。県は「残り20年しかない」と危機感を募らせる。除染土壌の公共事業などでの再生利用や理解醸成、最終処分はどうなるのか。国や地元の動きを追った。
「喜んでもらっては困る」。2月下旬、双葉郡の首長の1人は環境省の官僚に電話して強く言い放った。双葉町長の伊沢史朗が個人的な見解として言及した「まず県内で取り組むべき」との発言をきっかけに、福島県のみで再生利用事業が進められかねない―。環境省にくぎを刺した首長は、そんな懸念を抱く。中間貯蔵施設にある東京ドーム11杯分の除染土壌のうち、国は4分の3を全国の公共工事などで再生利用しようとしている。しかし安全性確認に向けた実証事業の段階でも県外で全く進まず、今後の予定や計画も不透明。
このままでは、中間貯蔵施設立地町の負担はいつまでも軽くならない。膠着(こうちゃく)した状態に一石を投じようとしたのが、〝伊沢発言〟だったとみられる。
県内の首長からは再生利用の全国的な推進に向けた取り組みが必要との声が上がる。県町村会長で塙町長の宮田秀利も「再生利用に対する国民理解は、先にある県外最終処分の実現につながる」と力を込める。
ある県議は国の動きの鈍さを不安視する。環境省が10年間で進めるとした再生利用実証事業は南相馬市の仮置場や飯舘村長泥地区の農地、中間貯蔵施設内の道路盛土と、県内のみにとどまっている。
埼玉県所沢市や東京都新宿区では地元の強い反発によって事実上頓挫(とんざ)し、県外での実証の難しさが浮き彫りになった。環境省は「丁寧に説明を尽くす」として以降、2年近く表立った動きを見せていない。
この間、国際原子力機関(IAEA)は昨年秋、放射性物質濃度1キロ当たり8千ベクレル以下の利用について、安全基準に合致すると報告した。しかし同省はいまだ「基準づくりや評価などの材料をそろえている段階」としている。
県議会は県外最終処分に向けた取り組みの推進を国に求め、今年度2度目となる意見書案をまとめた。「再生利用は実証事業ですら実施困難な状況」と指摘した上で、県外での再生利用事業への理解が進むよう要望する内容で開会中の2月定例会で審議している。
12日に行われた双葉町3月定例会の一般質問で、伊沢は「県外最終処分などへの理解が十分に醸成されていないことに強い危機感を抱いている」と強調した。
さらに石破茂首相らが県外での再生利用や最終処分実現のために決意を示した国会答弁が「空手形」にならないよう求め、「県外最終処分は国との約束だ。しっかり取り組んでいただく」と訴えた。「首都圏での理解醸成が非常に大切だ」とも強調した。