東日本大震災・原発事故

復興を問う~国との温度差~ 帰還支援 事業縮小の動き警戒 共有・広域化促す声も

2025/03/17 10:41

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種芋を手に苗作りに励む猪狩さん。復興を成し遂げるためには支援継続が必要と話す
種芋を手に苗作りに励む猪狩さん。復興を成し遂げるためには支援継続が必要と話す

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興に向けた被災地と国との温度差は、自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金だけではなく、さまざまな事業に広がっている。

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 「復興の要望があれば、お伝えください」。2月下旬、東京電力福島第1原発事故の避難指示区域となった市町村の首長を訪ね、こう繰り返した人物がいた。復興庁事務方トップの事務次官宇野善昌だった。複数の自治体関係者は「事務次官の市町村訪問は記憶にない」と口をそろえ、異例の動きだと指摘する。

 最近、首長の頭を悩ませているのは、復興の柱となる帰還支援事業の行方だ。今まで生活拠点整備や移住・定住促進などの事業に充てられた予算総額は5200億円超に上る。帰還支援の対象の広さと内容の手厚さゆえ、効果の検証や目標設定が不十分として効率化が霞が関内で叫ばれている。

 復興基本方針の改定に向け、見直しの是非に関する議論が本格化する見込みだ。被災地の要望を一手に受ける復興庁と、大なたを振るいたい財務省との間で議論の「終着点」を決める綱引きが水面下で強まっているとされる。ある自治体の幹部は省庁間の力関係を念頭に「事業縮小へ向けた地ならしではないか」と身構える。

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 帰還支援の効率化に向け、議論の中心になりそうなのは福島再生加速化交付金だ。原発事故による前例のない課題に対応するため、国は原発事故被災地全域を対象に全額負担する仕組みを10年にわたって維持し、さまざまなインフラ整備を後押ししてきた。

 政府関係者によると、財務省は費用対効果を問題視しているという。特に農業分野では、町村ごとにカントリーエレベーターや倉庫など類似の施設が立地し、必要性を踏まえない野放図な計画だと映っているとされる。住民帰還が途上の状況を考慮しても「各地域の実情を踏まえ、支援先の重点化などで効率化を図るべきだと国の外部評価でも指摘されている」と説明する。

 一方、被災地は反発している。12市町村では震災が影響し、65歳以上の割合の伸び率は福島県平均を上回る。労働力不足が深刻となりつつあり、帰還者や移住者を呼び込むには交付金は依然として不可欠だと訴える。

 楢葉町は帰還率が7割超に上るが、高齢化率は震災前の25%を上回る37%に達している。町甘薯(かんしょ)生産部会の猪狩富夫さん(69)は補助金を活用して農業環境を整え、若い就農者を増やす必要があると説く。「省力化のためにも機械をそろえる必要もある」としている。

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 教育と医療の関連施設などについては、事業の共有・広域化を促す動きも出ている。政府の復興推進委員会作業部会の有識者は「広域的な利用が効果的ではないか」と提言。こうした意見に県避難地域復興課は、住民生活に密着した施設であり、各市町村が柔軟に対応できるようにすべきだとの立場だ。

 担当者は「費用対効果だけで判断するべきでない」と強調する。

 一方、国が全額負担していた事業費の一部を地元に負わせようとする動きが出ている。(敬称略)