論説

【インフラ補修】産業化へ後押しを(4月8日)

2025/04/08 09:18

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 トランプ米政権の相互関税の発動によって、日本は産業構造の大きな転換を迫られる懸念がある。雇用の流動化も視野に、成長分野を発掘して労働者の受け皿を確保する必要も生じる。全国で老朽化が進む橋や上下水道の監視・補修に注目したい。こうした事業を効率的に進める技術開発は途上にあると言える。政府は関連産業を育成し、インフラ対策を進める「令和版ニューディール政策」の導入を目指してはどうか。

 高度経済成長期に整備された国内の橋、トンネル、上下水道の多くが完成から50年以上が経過し、補修や更新が必要な時期を迎えている。埼玉県八潮市では今年1月、道路の陥没事故が起き、老朽化した下水道管の腐食が原因と指摘された。国土交通省によると、下水道管が原因の道路陥没は2022(令和4)年度に2607件発生し、対策は急務と言える。

 こうした中、下水道管破損などを探知するシステム実用化を目指す産学官連携の取り組みがいわき市で始まった。市内のベンチャー「コアシステムジャパン」(CSJ、本社・東京都)は、水位上昇などの変化が感知可能な光ファイバーを使った画期的なセンサーを開発し、特許を取得した。上流の水位に変化が見られないのに、下流で上昇が確認されれば破損の可能性ありと判断できる。

 CSJにとっては部品製作やシステムの量産化が課題となるが、市や市内の企業、教育機関などでつくる「いわき産学官ネットワーク協会」が実用化に向けて協力態勢を敷いた。地元をはじめ南相馬市や飯舘村の製造業者を同社に紹介し、部品生産にめどを付けた。福島高専が技術改良を後押ししている。

 ベンチャーは優れた技術力があるにもかかわらず、産業界とのつながりが希薄なゆえに事業拡大に限界があり、社会実装を断念するケースが少なくないとされる。CSJと協会の連携は、こうした難問の解決を地域一体で支援するモデルケースと評価できるだろう。

 相互関税の影響を配慮し、政府内で新たな経済対策の実施が検討されていると聞く。新産業の育成を視野に、公共インフラの老朽化対策に向けた予算を確保するのも生きた投資となる。(横山雄介)