論説

【憲法記念日】平和の根本を問い直せ(5月3日)

2025/05/03 09:22

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 憲法がうたう恒久平和の誓いを次代にどうつなぐのか。戦後80年の節目に、日本はかつてなく深刻な問いに直面している。同盟を組む米国との間に、安全保障の在り方を巡り微妙な隙間風が吹き抜けつつある。東アジアの覇権を巡る動きは緊迫の度合いを強め、地政学的な懸念が日々高まる。国民一人一人が主権者として不戦の誓いを改めて心に刻み、自国の立ち位置を根本から見つめ直す待ったなしの局面を迎えている。

 憲法9条には、国際平和を希求し、戦争と武力行使を永久に放棄すると明記されている。牙をむく海外の脅威と向き合いながら、国民は崇高な理想を一貫して追い求め続けてきた。古くは安保闘争をはじめ、安倍晋三内閣での集団的自衛権行使、岸田文雄内閣での反撃能力(敵基地攻撃能力)保有の容認に対して強い反発が噴き出したのは、その表れだと言える。

 一方で、わが国の平和は日米安保という国防の土台によって保たれてきた側面もある。ただ、今後の両国関係は急激に不透明さを増している。「米国は世界の警察官ではない」と宣言したのは、オバマ大統領だった。トランプ大統領は在日米軍駐留費の日本側の負担に不満を表明し、関税交渉のカードに据えたとの観測が一時伝わった。

 政府は、台湾有事を想定したとみられる沖縄県民の避難概要を公表した。北朝鮮のミサイル発射の威嚇が続く。ウクライナに侵攻するロシアが北に構える。米国の関税政策は新たな経済ブロック圏の誕生を誘発し、国家間に分断が生じるとの指摘もある。

 さまざまな「外患」にどう対応すべきか。憲法9条の精神を重んじ、防衛力強化には熟議を重ねる必要がある。政治家は海外情勢の中長期的な見通しと、平和主義の堅持に向けて不可欠な外交政策を国民に示すべきだ。草の根レベルで活発に意見を交わし、望ましい国際国家像を描く作業も欠かせない。

 憲法25条は健康で文化的な最低限度の生存権を保障している。不安定な就労環境に置かれ、全人口の6分の1が該当する就職氷河期世代への支援強化に異論はあるまい。こうした層を視野に入れた年金改革の今国会でのもたつきに、政治の機能低下が透けて見える。(菅野龍太)