2024酒造年度の全国新酒鑑評会で、福島県は3年ぶりに金賞受賞数「日本一」を奪還した。猛暑で硬くなった酒米の処理が全国的な課題となる中、県内蔵元は専門家の指導を基に、蓄積した技術を存分に生かして見事に品質を極めた。関係団体、行政、県民が一つになり、一度逃した10連覇を再び目指す誓いを新たにしたい。
酒米は近年、温暖化の影響で硬くなる傾向にあり、味や香りが醸しにくい状況が続いている。県日本酒アドバイザーで県酒造組合特別顧問の鈴木賢二さんによると、昨年産米は「史上最も硬い」難物だった。各蔵元は鈴木さんのアドバイスを受け、仕込み水の割合を減らして味を調整する試行錯誤を続けた。他県を上回る結果を得られたのは、県内の蔵人が素材の変化に柔軟に対応できる巧技を、先人から受け継いできた結果だろう。全国に誇るべきふくしまの底力といえる。
仕込み水の減量により、酒の味がコクと深みを増した。最近の鑑評会での評価は「軽快で適度な香り」から「しっかりとして高い香り」に変化している。減水の挑戦は、こうした審査のトレンドを的確に捉えていた。
ただ、金賞受賞数は兵庫県と同数の16銘柄で、昨年より二つ減った。他県も鑑評会での上位入賞を目指し、もろみ管理技術などを高め、懸命に味の追求に励んでいると聞く。福島県は2012酒造年度から9回連続で金賞数日本一に輝いたが、2022酒造年度で途絶えた。今回、10連覇に向けて新たな出発点に立ったが、目標を達成するには気候変動などへの不断の対応が欠かせない。
関係者は、連覇には酒米の質をさらに高める必要があると指摘している。猛暑に強い酒造好適米の開発は急務で、酒造業界と県農業総合センターをはじめとした研究機関が連携する素材改良の取り組みを早急に進めるべきではないか。「夢の香」「福乃香」に次ぐ、県オリジナル好適米の導入も待たれる。
県内ではこの10年ほど、若い造り手が増えている。微発泡など個性ある県産酒も市場に投入されつつある。若い感性が伝統の業界に新風を吹き込む。地域産業を支える夢を描きながら、喜びの杯を重ねよう。(渡部総一郎)