論説

【備蓄米放出】持続可能な政策示せ(5月27日)

2025/05/27 09:03

  • Facebookで共有
  • Twitterで共有

 小泉進次郎農相が26日に発表した政府備蓄米の新たな放出方式は、随意契約の導入によって店頭の販売価格を5キロ当たり税抜き2千円程度にする目標を掲げるが、4千円台に高騰している米価全体をどの程度押し下げられるかは不透明だ。政府は消費者と生産者がともに安心できる価格に落ち着かせ、その状態を維持させる持続可能なコメ政策を打ち出す必要がある。

 新方式は、これまでの競争入札を取りやめ、随意契約で備蓄米30万トンを大手スーパーなどの小売業に放出する。政府の売り渡し価格は60キロ当たり税抜き1万700円で、過去3回の入札で落札した平均価格の半額以下となる。この下げ幅を見ても、高値での取引を繰り返してきた農水省のこれまでの対応と整合性が取れない。

 国は、コメを小売業者に直接引き渡すことで、集荷業者や卸売業者分の手数料が省かれ、店頭価格を抑えられるとしている。消費者に届く時間も短縮できる。従来の市場システムを抜本的に見直した形だが、需要と供給のバランスを度外視した国の介入は、米価の乱高下や買い控えの副作用を招く恐れがある。

 国は小売業者が地方にコメを輸送する費用も負担し、経費の価格転嫁を防ぐという。安価な備蓄米が全国に出回る日は遠くなさそうだが、大手スーパーが立地しない地域は店頭で購入できるとは限らない。インターネットによる販売も数量に限りがあるはずだ。消費者に不公平感が生じない配慮が欠かせない。希望者全員が手に入れられる仕組みを検討すべきだろう。

 農水省によると、今年産の主食用米は前年比で40万トン増産される見込みとなった。県内でも栽培面積を拡大する稲作農家が少なくない。供給量が急増すると心配されるのが価格の下落だ。政府には生産量と価格の推移を見極めた適切な対応が求められる。

 共同通信社が24、25日に実施した全国世論調査で、回答者の6割が小泉農相の就任でコメ価格が「下がると思う」と答えた。期待が大きいだけに、失敗は許されない。今夏の参院選では米価対策が争点の一つになりそうだ。各党は食料安全保障の柱である国産米の安定生産と適正価格の両立を図るべく、議論を交わしてほしい。(角田守良)