論説

【いわき信組】うみを出し切れるか(5月31日)

2025/05/31 09:07

  • Facebookで共有
  • Twitterで共有

 いわき信用組合(本部・いわき市)の不祥事を調査した第三者委員会は「全容解明には程遠い」とする認識を示した。不正融資の実行件数は1293件に上り、総額は247億円に達すると公表したが、依然、使途不明額が残る。財務省東北財務局は銀行法に基づく業務改善命令を発した。住民の信頼を基に操業する地域金融機関が重ねた類例を見ない悪質行為に、驚きを禁じ得ない。たまったうみを自ら出し切らない限り、再生の道は極めて険しい。

 いわき信組は、旧経営陣が大口取引先を支援するため、融資先と信組の役員や家族への貸し出しを装う迂回[うかい]融資を行っていたと昨年11月に発表した。当初、総額は10億円超と伝わっていたが、不正融資額は結果的に想像をはるかに超える規模で、手口は巧妙だった。職業倫理の欠如は甚だしく、金融事業者としての資質を疑うばかりだ。

 一方、東北財務局は業務改善命令で、元会長の存在が絶対的で、経営への監視機能が十分働いていなかった点を不祥事の背景に挙げた。上意下達の企業風土が強く、法令順守(コンプライアンス)意識が欠如していたとの見方も示した。株主、顧客重視の経営が求められる中、旧態依然とした体質を放置すれば、組織全体にゆがみが生じてしまう一つの教訓として真摯[しんし]に受け止める必要がある。

 第三者委員会の調査の過程で、いわき信組には隠匿や虚偽説明、資料の処分があり、積極的に事実関係を明らかにする意識も希薄だったという。今回の結果も踏まえ、経営陣を刷新して業務改革に取り組むが、人のすげ替えだけでは、地に落ちた信頼を回復できまい。猛省を再生につなげるべく、今後の取り組みを広く伝え、さまざまな声を生かす不断の努力こそ、「ガラス張りの経営」を築く第一歩だと肝に銘じるべきだ。

 今年3月には、県商工信用組合(本店・郡山市)が複数の職員による積立金着服などに絡み、東北財務局から業務改善命令を受けている。相次ぐ行政処分の経済界への影響が憂慮される。地域金融機関それぞれが足元を見つめ直し、顧客と対話を深める機会にしてもらいたい。

 不正を長年、見逃した国の検査態勢の在り方も厳しく問われる。(菅野龍太)