論説

【万世大路の保存】機運盛り上げ急いで(6月3日)

2025/06/03 09:16

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 栗子峠を越えて福島市と山形県米沢市を結ぶ大動脈「万世大路」は整備開始から150年近くが過ぎ、旧道の荒廃が進んでいる。貴重な歴史遺産の維持管理の強化は急務で、官民挙げて未来に継承する機運を高めたい。

 国土交通省は、完成時期によって万世大路を四つの世代に区分している。「第1世代」は土木県令と称された三島通庸の号令の下、当時最高の技術と多額の資金が注ぎ込まれて1881(明治14)年に開通した。自動車やバスが通行できる「第2世代」は1937(昭和12)年に誕生したものの、3メートルを超える積雪のため冬季通行止めを余儀なくされた。年間通行が可能で、現在も国道13号として供用されている「第3世代」は1966年に完成し、2017(平成29)年に開通した東北中央道は「第4世代」に当たる。

 このうち第1・2世代は廃道になって以降、行政の管理を離れた。現在は、「福島市万世大路を守る会」や「二ツ小屋隧[ずい]道[どう]保存会」など地元の民間団体がボランティアで、保存に取り組んでいる。重機で崩落箇所や路面の復旧に努め、草刈り、倒木の片付けなどを続けているが、会員は高齢者世代が中心で、今後も活動を持続させるには後継者の育成が欠かせない。両会の取り組みを広く周知し、協力者を募る必要もあるだろう。

 万世大路は1996年、歴史的・文化的に重要な古道・交通関係の遺跡のうち特に重要な「歴史の道百選」に選ばれた。2012年には、土木構造物の文化的価値を再評価し、保存や価値を推奨する「選奨土木遺産」に選定されている。保存に関わる民間団体からは「トンネルや橋の安全性の確保は、民間の力では限界がある。行政の支援が必要」との指摘が出ている。財政面を含めた公的な後押しも検討が必要ではないか。

 地元の観光協会やNPO法人などでつくる「市フルーツラインエリア観光推進協議」は探検ツアーを実施し毎回、県内外から参加者を集めている。こうした実情を踏まえれば、観光資源としての活用も視野に入ってくる。

 万世大路は、開通式にご臨席された明治天皇が「萬世ノ永キニ渡リ人々二愛サレル道トナレ」と願って名付けた。貴重な地域の宝を失ってはならない。(神野誠)