コメ政策を巡る政府の関係閣僚会議は5日の初会合で、増産を含む供給安定化に向けた議論に着手した。コメの価格高騰で浮き彫りになった減産主軸の農業政策のひずみを是正できるのかが焦点となる。ただ、増産に転じた場合は価格が下落し、生産者の所得減少につながりかねない。政府は需給バランスを踏まえた稲作の将来像を描き切り、農業経営を支える仕組みを打ち出すべきだ。
関係閣僚会議は石破茂首相が議長を務め、2026(令和8)年夏ごろまでに具体的な方向性を集約するとしている。コメ生産の強化に向けた中長期的な対策などを盛り込むとみられる。農家の所得補償の在り方も重要な論点になりそうだ。
今年の主食用米生産量は全国的に前年実績を上回り、県内でも前年より3万1800トン増えて33万6300トンになると見込まれる。数字上は増産となるが、安価な備蓄米や飼料用米からの切り替えが多く、コメの栽培面積そのものに大きな変化はみられない。一方、高齢化と後継者不足によって農家数は年々減り続け、コメの増産を続けていくには多くの課題が横たわる。
国はロボットやデジタル技術を活用した「スマート農業」で人手不足を補おうとするが、成果は見通せない。若者の就農には機材購入などの初期投資や不安定な収入が障壁になっている。行政と金融機関、企業が連携し、地域で新規就農者を後押しする制度を検討すべきではないか。
所得を減らした生産者への補償について、大規模化や生産コストの削減に取り組む農家に限定すべきとの意見もある。水田の集約を目指す生産者にとっては意欲を高める機会となるが、小規模農家は経営が行き詰まり、離農に拍車がかかる恐れがある。日本の農業基盤を強化するには、全ての生産者が安心して従事できる環境が欠かせない。
主食用米への切り替えによって生産量が減少する備蓄米や飼料用米を今後、どのように確保していくのか。安価な輸入米による補充は、新たな価格崩壊を招く危険性を伴う。コメの流通量を需要に応じて調整し、適正価格を維持する国の取り組みが不可欠だ。農家を二度と翻弄[ほんろう]させぬよう政府には慎重な対応が求められる。(角田守良)