会津大は月面探査に向けて機器開発の実証の場を作る研究を始める。国内七つの大学・企業などと連携し、月や火星など宇宙での生存圏と生活圏を構築するための機器開発や人材育成を図るプロジェクトに参加する。県内の航空宇宙産業の発展につながる成果に期待したい。
プロジェクトは宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「宇宙戦略基金事業・SX研究開発拠点(代表=立命館大)」に採択された。JAXAを超える水準の研究開発拠点形成を目指し、月面の環境再現や試料採取、水資源分析などの技術を開発する。JAXAと3年契約で始め、期間は最長7年。国内では、これまでに例のない大規模な月面開発に関する事業と言える。
会津大は環境再現技術の研究に取り組む。会津若松市の学内に「箱庭チャンバー(空間)」と呼ばれる金属製の実験装置を設ける。今年度内に完成させ、来年度以降に本格運用する予定だ。月にある細かい砂「レゴリス」を帯電させ、極めて低温・高温下での動きを調べる。南相馬市の福島ロボットテストフィールド(ロボテス)内に作られた模擬月面クレーター走行路で実験している探査車「ローバ」の性能についても確認する。
レゴリスは月面活動の際に人間の健康に害を与え、機器の動作を阻むとされる。箱庭チャンバーは、大学や企業などが各種の探査機器開発に向けて実験するインフラとして利用されるのを想定し、成果をレゴリス除去システムの研究につなげる。会津大の担当者の出村裕英宇宙情報科学研究センター長兼コンピュータ理工学科教授は「月と同じ真空状態を再現できるかどうかが実験の鍵となる」と話す。
実験が成功すれば、民間企業が会津大の実験装置を利用して航空宇宙関連の研究開発に着手できる可能性がある。宇宙機器は少品種、少数量の部品が多く、大企業より小回りの利く中小企業が製造を受注しやすい環境にある。県内の事業所も参入の機会をうかがえるのではないか。
航空宇宙産業は福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の重点分野の一つになっている。会津大と県内の企業、団体が連携を深め、月探査の実用化に向けて先導的な役割を果たしてもらいたい。(風間洋)