論説

【2025参院選 財政運営】現実を直視して語れ(7月8日)

2025/07/08 09:12

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 20日投開票の参院選で、物価高対策を巡る各党の主張は熱を帯びているが、極めて厳しい国の財政状況を長期的な視点に立っていかに改善するかという議論はほぼ聞こえてこない。目先の利得で国民を誘い、債務増加という「不都合な真実」から目を背ける政治の姿勢は不実とも映る。人口減が加速する中、いかに未来の成長戦略を描くのか、今後の論戦に期待したい。

 国の普通国債残高は年々増え、2025(令和7)年度末には1129兆円に上る見通しとなっている。対GDP比で約2・5倍に上り、イタリアの1・4倍、米国の1・2倍など他の主要先進国と比べて突出して高い状況にある。人口減社会の重荷となって将来に響く。

 物価高対策の給付や減税に伴う原資を確保するため、各党は税収の上振れ分や基金の取り崩し、特別会計の余剰金活用などの案を示している。しかし、経済の専門家などから、浮いた財源があるのならば、悪化が進む財政の改善に充当すべきだとの意見が出ていることも忘れてなるまい。肝要なのは、真に後押しを必要とする人を見抜く力だ。米国からの防衛費の増額要求など新たな歳出への備えも必要となる。

 国債発行を巡っては、今後の引き受け手の確保が課題とされている。金融緩和策を終えた日銀が購入額を減らしているためだ。需要が減って価格が下がれば、相反する関係にある金利が上昇する。国の利払い費増加につながり、財政悪化が加速するとの見立てもある。こうした状況に配慮してか、日銀は先月の金融政策決定会合で、国債買い入れの減額ペースの緩和を決定した。新たな買い手として財務省は、海外の機関投資家らを視野に入れていると伝わる。しかし、各国の財政状況に敏感な彼らは、「ばらまき」とも揶揄される選挙公約を、冷めた目で見詰めているのではないだろうか。

 国の財政状況の改善には、経済のけん引役となる新たな産業の創出が欠かせない。企業の収益が増えれば税収と国民の手取りが増え、社会保障の原資も厚くなる。各党は半導体、AI関連産業などへの支援を打ち出したが具体策に欠けているように映る。国の成長戦略を有権者に丁寧に示すべきだ。(菅野龍太)