東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの再生途上にある本県にとって、参院選は重要な意味を持つ。きょう11日で発生から14年4カ月の時が刻まれ、記憶と教訓の風化は顕在化しつつある。復興を完遂する政治の責任をどう果たすのか。政党や候補者は、風化にあらがう気概で具体的な政策を示してほしい。
「避難者の帰還が思うように進まない」「全国報道で触れられる機会が減った」…。日頃、浜通りを歩くと、首長ら市町村関係者、住民から風化を憂える声を聞く。風評払拭に向けて11年間続けられた県の消費者交流事業について、国が昨年度で全額予算措置を打ち切った動きなどにも落胆が広がった。
福島民報社が今年1月、県内59市町村に対して行ったアンケートでは、震災・原発事故について64・4%に当たる38市町村が「風化を感じる場面が増えた」と答えた。具体的な事例の一つとして挙がったのが、第2期復興・創生期間が今年度で終わるのを前に実施された政府の行政事業レビューでの議論だ。国の全額負担を原則としている福島再生加速化交付金の地元負担導入、自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金の終了時期検討の必要性などが指摘され、県内市町村からは「原発事故という特殊性への認識が薄れている」「復興が始まったばかりの地域もある」との反論が相次いだ。
原発の廃炉や除染土壌の最終処分、持続性のある生業[なりわい]の確立、コミュニティーや文化の再生など、本格的な復興に向けての課題は枚挙にいとまがない。政府は参院選を前に、来年度からの5年間を第3期復興・創生期間と位置付け、本県分の事業費として第2期を上回る1兆6千億円程度を充てた。「良識の府」の一員として、何を実行するのか。風化の進行が懸念される今こそ、政党や候補者には踏み込んだ論戦を求めたい。
南海トラフ巨大地震や首都直下地震などの国難が予測される中、災害に負けない国づくりは差し迫った最重要課題の一つと言える。複合災害に向き合い続ける本県の知見は最大限に生かされる必要があり、新設される防災庁を誘致する動きが県内でも出ている。国民や国土を災禍から守る姿勢や道筋も投票の判断材料になる。(渡部育夫)