夏山シーズンが本格化している。県内では今年、残雪が多かった影響もあり、山岳遭難が多発している。登山を快適に楽しむためには、万一への備えが重要になる。山岳遭難の主な原因となる「道迷い」を、登山者一人一人の心がけで防ぎたい。
全国的に山岳遭難は増加傾向にある。警察庁のまとめによると、2024(令和6)年は2946件で、統計の残る1961(昭和36)年以降で3番目に多かった。県内は66件で前年と同数だったが、今年は6月末までにすでに46件起きている。昨年の同時期より19件多い。夏山でも雪解けが遅かった影響が残っているとみて、関係機関は登山者に注意を呼びかけている。
昨年の事故を状況別に見ると、全国では「道迷い」が約3割、「転倒」が2割、「滑落」が2割弱と続いた。県警によると、県内でも同様の傾向にある。転倒や滑落には、道迷いに起因するものも多い。進路を見失った焦りや動揺、不安から注意力が散漫になり、思わぬけがや事故につながる確率が高くなる。
登山道には標識が立っている場所は多いが、劣化が進んで表示が薄れ、判読しにくくなっているケースもある。道に迷ったら元の場所に引き返すのが原則だが、難しい場合は上へ上へ登れば尾根にある登山道にたどり着く可能性が高い。逆に下に下りると崖や沢にぶつかり転落する危険があることも肝に銘じたい。
「道迷い」を防ぐには、事前にコースの状況を頭に入れておき、登山中も休憩などの際に小まめに現在地を確認する必要がある。衛星利用測位システム(GPS)機能付き携帯電話は山の中ではつながらなかったり、電池切れになったりする可能性もある。地図とコンパスで現在地を確認できる技術を身に付けておいてはどうか。
日本山岳会福島支部が初めて企画した初心者向けの安全登山講習会が、9月まで開かれている。地図の見方、コンパスの使い方も指導する。25人の定員に対し100人を超える申し込みがあった。今年度は会場の都合もあり受講者を絞ったが、次回からは受け入れ態勢を充実させ、読図技術の普及を図ってほしい。備えを怠らない重要性を次の世代に伝え、山岳事故抑止につなげよう。(三神尚子)