論説

【被災地の住宅整備】国は柔軟な後押しを(7月29日)

2025/07/29 09:15

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 政府は来年度から5年間の「第3期復興・創生期間」で従来を上回る規模の復興事業予算を確保する見通しだが、金額の多寡ばかりでなく、使途についても柔軟な姿勢が求められる。管内で帰還・移住者向けの住宅不足が慢性化している大熊、双葉の両町は、民間住宅の整備への支援を求めている。住まいの確保は定住人口の拡大に不可欠な条件だけに、前例にとらわれず早急な対応を求めたい。

 東京電力福島第1原発の立地自治体では除染などに伴い、多くの住宅が解体された。大熊町内では義務教育施設が整備されたが、町外から入学する子どもの家族の受け皿は少ないという。双葉町は企業立地が進み町内で働く人が増えている。2028(令和10)年度には新教育施設の開校・開園が控え、住宅の需要が高まっている。

 県によると、住民票を置く人口の町内居住率は今年1月時点で大熊町8・9%、双葉町3・4%だった。居住者数が現状のままでは、地域コミュニティーの再生が円滑に進まない可能性が高い。産業活動への人材供給が停滞する恐れもある。

 こうした懸念も踏まえて、両町は賃貸住宅を町内に建設する民間事業に、費用の一部を補助する独自の制度をそれぞれ設けた。災害公営住宅など公的賃貸住宅の整備は計画策定や関係機関との調整などに時間を要して複数年かかるが、民間の場合は着工から1年前後での供給が可能なためだ。収入状況にかかわらず、より広く入居者を受け入れられる利点もある。

 両町は一般財源で補助制度を運用しているが独自の施設整備なども控えており、予算確保に向け国の後押しを訴えている。福島再生加速化交付金は生活拠点整備に活用できるものの、現行では公的賃貸住宅の建設に対象が限られる。国土交通省は「民間の資産形成につながる公的資金の投入は難しい」としている。原子力政策という国策に伴う極めて特殊な災害からの復興を目指すには、紋切り型の対応では限界がある。

 住宅不足の問題に限らず、被災地の課題は複雑化し、地域ごとに細分化している。政府にはこれまで以上に、細やかに視点を広げて関係自治体の取り組みを後押しする必要がある。(渡部総一郎)