〈島々や千々に砕けて夏の海〉。目の前に広がる大自然の壮観な絵巻は、松尾芭蕉をとりこにした。海水浴シーズンが終わり、浜辺の人混みは一段落した。静かに白波を眺めれば、さまざま思い浮かぶ季節を迎える▼波音に創作意欲をかき立てられるのは俳聖ばかりでない。きょう24日、いわき市のアクアマリンふくしまで「いわき海の俳句全国大会」が開かれる。2016(平成28)年夏に始まり、10回目を迎えた。市内出身の俳人らによる実行委員会が主催する。震災復興を願い、海を見詰め直す機会を提供してきた▼幅広い世代が五・七・五に思いを込め、これまでに1万5千作ほどが寄せられた。第1回で大賞に選ばれたのは〈月明や土台ばかりの四百戸〉。暮らしの営みが一瞬で無に帰された。その被災地を、一筋の月光が静かに照らす。〈どうしても憎めぬ春の海光る〉。人知を超え、多様な表情を見せる大洋への複雑な感情が交錯する▼いわき開催は節目の今回で最後となるが、俳人仲間が意志を継ぐ。来年からは、美[ちゅ]ら海に抱かれる沖縄が舞台だ。80年前、無残に終わった国策で、容易に消えぬ心の傷が刻まれた。〈海原を越えて痛みに思い馳[は]せ〉。拙句。<2025・8・24>