【ふくしま創生 挑戦者の流儀】StoD(福島県会津若松市) 会津大4年・能勢航羽(下) 人手不足の突破口に

2025/08/27 10:47

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会津リースの担当者にシステムの使い方を解説する能勢さん(右)
会津リースの担当者にシステムの使い方を解説する能勢さん(右)

 ITで業務を効率化し人間の価値を高めたい―。会津大4年の能勢航羽(22)=福島県大熊町出身=は企業の働き方改革や人材不足解消などをITで補うサービスを発案した。2023(令和5)年4月、学生ベンチャーの個人事業主として活動をスタートさせた。20歳だった。


■「ITで人の価値高める」 大学休学、独自システム開発

 当初、それぞれの企業課題に応じたシステムを既存のソフト内に組み込んでサービスを提供していた。初期費用を抑えられる上、扱いやすさを考慮した。

 だが、その手法はすぐに壁に当たった。提供できるサービスには限界があったためだ。チャットGPTなど人工知能(AI)のサブスクリプション(定額利用)は導入のハードルは低いが、日進月歩のAIは頻繁に更新される。顧客のニーズを満たし続けるためには、自社「StoD」独自のシステム提供へと軸足を移すしか選択肢がなかった。時代の要請と思えた。

 「勝負の1年にしよう」。大学3年を終えたタイミングで休学を決意した。家族から大反対された。「そこまですることなのか」「まずは学業を最優先にすべきじゃないのか」。両親に懇願されたが、負けじと資料を作って、事業への熱意を伝えた。最後は両親が折れ、背中を押してくれた。

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 苦戦したのは顧客の獲得だ。当初、全ての業務を有料にしていた。相談時点から料金が発生する仕組みだった。「自分が顧客だったら、正体の知れない若者に『コンサルティングでお金を取ります』と言われても、実績がないのに依頼する気になれない」。まずは無料のコンサルで自らを知ってもらいたい。一から出直した。

 「相手にとって『使える人間』であることを示さなければならない」

 人脈を広げるために、県中小企業家同友会会津支部に加入し、会津若松商工会議所のAIセミナーで講師を務めた。父親ほど年の離れた経済人と向き合った。先を歩いてきた起業家、経営者らの懐の広さ、温かさに触れた。

 商工会議所のセミナーでの講演をきっかけに、大きな仕事が舞い込んだ。清掃・衛生用品のレンタルや販売を手がける会津リース(会津若松市)が、業務効率化に向けたサービスの開発を依頼した。

 会津リースは会津地方全域に1万件以上の取引先がある。従業員それぞれが経験則と勘を頼りに1日数十件の訪問ルートを考え、業績を上げていた。業務の引き継ぎは昔ながらの紙で、地図に手書きで該当する取引先や注意点を記していた。アナログだった。

 能勢は従業員への聞き取りを重ね、地図アプリと連動した新たなサービスの開発を提案した。取引先のデータをあらかじめシステムに組み込み、AIが距離や時間、導線などを加味して適切な訪問ルートを提示する。スマホ上で業務の進捗[しんちょく]報告や注意事項の引き継ぎも可能だ。能勢が従業員への使用方法の説明や指導を担い、6月から利用をスタートさせた。使い勝手が良く、時短につながったと好評を得ている。

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 「人が好き。だからこそ、それぞれの強みを生かせる場所をつくりたい」。能勢は目を輝かせる。「自身が提供するサービスで人間の価値を最大化すること」が何よりの目標だ。

 今後は会津大生向けにIT企業への就職支援サービスの開発や、アプリの開発成果を競い合う「ハッカソン」の開催などを手がける計画だ。

 「これからもっとAIやITが必要とされる時代になる。自分が持つ知識と技術を武器に、地域の皆さんの力になりたい」

 若き起業家の挑戦は、とどまるところを知らない。(文中敬称略)